歴史の空白を埋める、歴史小説の試みの成果を示す、井上靖の「敦煌」
かつて歴史学者の岡田彰雄は、歴史学者と小説家の歴史に対するアプローチの違いについて、「歴史学者が自分の吐く息をかける事によって、史料と史料との間の必然的な関係が乱される事を恐れて、つとめて自分を抑え、自分を殺して、歴史の中に入りこんで行こうとするのに対して、作家はむしろ手をのばして、自分の方に引き寄せる事に力を注いでいるように思われる。歴史家が不完全な史料の断片を繋ぎ合わせ、史実を探り、歴史の中の未知の分野に一歩でも近づこうと骨を折っているのに対して、例えばバルザックのような天才は、その深い洞察力と豊富な想像力によって、歴史の空白を補い、歴史家さえも感嘆させる程、見事な歴史を再現させる事が出来る。」と述べています。作家の井上靖の歴史小説へのアプローチも、彼の歴史に対する深い洞察力と想像力によって、"歴史の空白"を補おうとしているように思われます。「敦煌」は、千仏洞(敦煌)の物語です。20世紀...この感想を読む
5.05.0
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