今、目の前を過ぎ行く一瞬一瞬がたまらなく愛しいものとなった。 「......こんなに大事なものを、わたしはどう扱って来たのだろう」 手をついて何かにあやまりたくなった。
森真希
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誰もが一度は想像する一人だけの世界この主人公もいかにも北村薫らしいですね。誰もいない世界に飛ばされても服を買ってお金を払い、毎日何かしら行動する。北村薫の書く主人公っていつもそんな感じ。モラルがあって、感受性が豊かで新しいもの好きで、ちょっと昭和っぽい。同じ女としては、こうありたいと思うような、身近にいたらちょっと気後れさせられるような、そんな主人公です。でも一人だけの世界が長くなると叫んだり、何もしなかったり、体を打ち付けたりそういうのが簡単に書かれてますけどその葛藤っていうか、寂しさと絶望みたいな所をもっと覗いてみたい気もしました。主人公は版画家で、メゾチントっていう技法(?)を使って絵を描くのですけど、私はメゾチントを知らないままに読み進めていて、いつの間にかこの話を思い浮かべるときいつもダリの『記憶の固執』が浮かぶようになりました。時の残酷さっていう点で似通っているのかな?頭の中の...この感想を読む
〈時と人〉三部作の二作目。交通事故によって、突然同じ一日が何度も繰り返される世界に迷い込んでしまった主人公。何回繰り返しても抜け出すことができない。そこに一本の電話がかかってきて、というお話。今回は一作目と違って、きちんと理由があってループ(ターン)している。これまた考えさせられることの多い小説だった。まず、相手役の男性が、人間として物凄く魅力的。主人公を支えて、助けて、導いて、こんな人現実にいたらなぁ! と思わされる。北村薫さんは、何か美術に関わる経験をお持ちなのだろうか? よく知らないけれど、絵を描く人にとっても興味深いと思われるエピソードがちらほら。そういう専門的な話も含めて面白かった。
森真希
交通事故に遭って現実世界では意識不明となり、何度も同じ日を繰り返すパラレルワールドで生きることになった主人公が、同じように意識不明、重体でパラレルワールドに来た男の、現実世界での死を知り、同じ日々の繰り返しの中でも時間が有限であることを悟った時の心の中の台詞。