荒廃して刹那的に破滅していく人間の業、心の闇を描く文芸映画の秀作「火山のもとで」 - 火山のもとでの感想

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荒廃して刹那的に破滅していく人間の業、心の闇を描く文芸映画の秀作「火山のもとで」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

1984年のジョン・ヒューストン監督の「火山のもとで」は、イギリスの破滅型作家と言われているマルカム・ラウリーの原作を映画化した文芸ドラマで、第37回カンヌ国際映画祭でこの映画も含む、ジョン・ヒューストン監督の長年の映画界への貢献に対して特別名誉賞が贈られています。

この映画の主演のアルバート・フィニーは、私の大好きな俳優で、その年の第10回ボストン映画批評家協会賞の主演男優賞を「アマデウス」のF・マーリー・エイブラハムと同時受賞しています。 また、同年の第42回ゴールデン・グローブ賞のドラマ部門の主演男優賞にノミネート、助演のジャクリーン・ビセットが助演女優賞にノミネートされています。

ともに大好きなアルバート・フィニーとジャクリーン・ビセットのワクワクするような共演は、1967年の「いつも2人で」、1974年の「オリエント急行殺人事件」に次いで3度目となりますが、本格的な競演はこの映画が初めてになります。

アルバート・フィニーは、前年の名作「ドレッサー」の演技で、第34回ベルリン国際映画祭で主演男優賞を受賞していて、まさに役者として脂の乗り切った時期に、この「火山のもとで」に出演していて、彼のシェークスピア役者としての舞台仕込みの円熟した演技が堪能出来ます。

主役のアルバート・フィニー扮する、メキシコ駐在の元イギリス領事ジェフリーは、毎日、異常とも思えるほど酒浸りの刹那的な人生を送っています。 妻に逃げられた悲しみとか仕事上での行き詰まりとか、何故、このように大酒を浴びるように飲み続け、我が身を破滅的に滅ぼそうとしているのか、映画は多くを語りません。

そこには人間というものがもっている、何か根源的な破滅志向というか、刹那的に我が身を切り刻み、追い込んでいく"業"のようなものを感じずにはいられません。 彼は何かに導かれるように酒に溺れ、他人に絡み、また飲んでは、酒にひたすら溺れていくというような、救いようのない、無限地獄へと堕していきます。

基本的に草食動物である日本人では考えられないような、肉食動物である欧米人の飲んで、暴れる凄まじいエネルギーには圧倒されます。 このあたりのアルバート・フィニーの演技は、まさに人間の内面から迸る、刹那的な悲しみや心の闇を表現していて、鬼気迫るものがあり、魂を揺さぶられます。

とにかくジェフリーは、ひたすら酒を飲み続け、心身共に荒れ果てていく、この全く救いのない物語を当時79歳のジョン・ヒューストン監督は、徹底したバイタリティと粘着質のしつこさでシニカルに描いていきます。

物語は、1930年代のメキシコを舞台に、死者が1年に1度この世に蘇えると信じられている万霊節の前夜のパーティで、ジェフリーはいつものように酒を飲み過ぎて、ドイツの外交官と喧嘩したりして騒動を起こしたりします。 そんな日の翌朝、1年前の万霊説に家出したジャクリーン・ビセット扮する妻のイヴォンヌが突然、ジェフリーの異母弟のアンソニー・アンドリュース扮するヒューと姿を現わします。

彼ら三人は、一緒に闘牛を見に行ったりして陽気にふるまっていますが、イヴォンヌとヒューはかつて大人の恋愛関係に陥った仲という事もあり、三人三様の微妙な関係の心のありようがうまく描かれていて、映画はここからの24時間という、限定された時間の中で展開する愛憎劇を丹念に描いていきます。

人生をもう一度、ジェフリーとやり直したいというイヴォンヌの申し出や、以前イヴォンヌから受け取っていながら未開封の手紙、その内容は自分の過去の過ちを悔いて許しを乞い、ジェフリーへの愛を誓うというものでしたが、ジェフリーは、彼女を本当は心の底から愛しているにもかかわらず、一度の不義を許せないのか、あいまいな態度を取り続け、再び酒を浴びるように飲み続けるのです。

そして、映画のラストで、ジェフリーとイヴォンヌは、悲劇的な結末を迎える事になります。 全く救いようのない物語で、暗澹たる気分になりますが、改めて人間が生きるという事の"業"、そして"心の闇"について深く考えさせてくれる映画でした。

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