終始涙が止まらなかった唯一の作品
恋をする素晴らしさをあらためて思い出させる、私のなかの恋愛映画の最高傑作。
とにかく泣きました。気がつくと自然に涙が止まらなくなる、そんな作品です。89分の中で半分以上は泣いてました。いままで観た映画の中でも一番泣きました。人生の中で人は多く出会いを経験し、そのなか誰かに恋をする。そしてそれがいつしか愛に変わる。そんな誰もが経験する恋愛を初恋という特別な恋をテーマに、中国のチャン・イーモウ監督が描いた作品です。この作品を観たとき、初恋の時の特別な感情がリアルに思い出されました。恋愛に疲れたとき、本当の恋愛ってわかんないと思うとき、ストレスに押し潰されそうなときにも、この初恋のきた道を観て思いっきり泣いて、あたたかい気持ちになれました。
派手さは全くないが、その世界にどんどん惹き込まれていく。
派手さは一切ありません。物語も淡々と進んでいきます。なのにどんどんその世界に惹き込まれていく。人はこんなときどんな感情を抱くのか、どんな行動を取るのか。そのひとつひとつがとにかく純粋で、ある意味本能のまま行動してしまう。しかしそれはちゃんと相手を思いやる行動であり、とにかく健気で胸を熱くします。舞台は都会からいくつも山を越えなければいけない人里離れた山奥のちいさな農村です。村には小学校すらありません。幼い子ども達も農業を手伝いながら大きくなっていく。大人になっても読み書きすら出来ない、そんなことは当たり前。ある日、ひとりの青年がその村に小学校を作ろうと山を越えてやってきます。その青年に18歳のひとりの少女が恋をする。少女は幼い頃から農業を手伝い恋などしたこともない。まさに初恋です。恋というものがどんなものかもわからない。自由恋愛など稀な環境で育ったが故に、どうしていいかもわからないなりに、初めて感じるその感情に戸惑いながらも、家にあったピンクの一張羅に着替えるのです。戸惑いや行動、すべてが初めてそんな少女をチャン・ツィイーが見事に演じてくれています。農村にやってくる教師である青年はチョン・ハオが演じています。都会からきた青年と農村の純粋な少女。というと、青年がリードしつつドラマチックな展開になったりなど想像する方もいるかもしれませんが、この青年も本当に純粋な奥手で不器用青年なんです。なのでお互いに惹かれつつも、その気持ちをストレートに伝えることは出来ない。青年も初めて会ったあの日、ピンクの衣装を身にまとった少女が目に焼きついていたのです。村は学校の建設で活気づき、男たちは総出で学校の建築に、女性は食事の支度や水汲み、家事にと精を出します。少女も青年に一生懸命お弁当を作ってみたり。それを建設現場に持っていっても誰が食べるかもわからないのに。直接手渡すことすら恥ずかしくて出来ない。作業の合間にすれ違う、特に言葉を交わすこともないが、ふたりは少しずつ少しずつ心の距離を縮めていきます。しかしその想いは伝えられぬまま、ある日青年は街で起こった革命によって街へと戻らなくてはならなくなります。街に戻る前に、青年は少女にピンク色の衣装に似合う髪飾りを贈り街へと帰っていく。ふたりは愛しい想いを抱いたまま離れ離れになってしまう。少女は青年が戻ってくると信じて、毎日毎日山を越えた途中の道ではるか遠い街を眺めながら待ちます。心を込めたお弁当を持って。雨の日も雪の日も。初恋であり純愛であるふたりの心が見事に描かれている作品です。
ひとつひとつの感情や行動を大切に描かれた作品だと感じました。
この作品の素晴らしいところは、気持ちや感情をより深く表現されているところだと感じました。派手さはないと書きましたが、お洒落な台詞だったり、流行のファッションだったり、偽善的な表現であったり、そんなことよりも恋をすることの素晴らしさ、人を愛することの奥深さ、それが理屈ではないこと、思いやりをもって人と向き合うことの大切さ、モノの溢れた世界で忘れかけているなにかをあらためて思い出させてくれました。キャストを豪華にしてどうとか、原作であるパオ・シーの小説「初恋のきた道」を限りなく大切に映画化したのがひしひしと伝わってきます。故にストーリーの中に変な小細工が一切ないのです。もちろん泣ける映画というのは、他にもたくさんありますが、この作品で溢れる涙は、涙が溢れることすら気づかぬうちに、気づけば泣いている、観ている側もなかなか普段味わえないような特別な感情を味わえる作品だと感じました。淡々と進むストーリー展開も苦どころかとても心地よかったし、しばらく恋愛映画を観るのが怖くなったくらいでした。けっこう辛口に悪いところもと思い起こしてみてもなかなか思い浮かばない。カメラワークやカット割りなんかも好みだったのと、時代背景からみる人々の暮らし、貧富の差や差別などもさり気なく盛り込まれていたし、ここまで気持ちをグッと映画の世界へもってかれたのは初めてかもしれません。間違いなく私のなかのベスト恋愛映画作品として、いまも揺るがない作品です。
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