前作『YAWARA!』の登場人物と比較してみた。
主人公 『猪熊 柔』と『海野 幸』
Wikiによると『YAWARA!』が大ヒットしたので、次の作品もスポーツもので、と編集部から要請があったらしい。タイトルの感じが『YAWARA!』と『Happy!』は似ているが、敢えてなのか、登場人物も似ている部分が多い。ここでは主要キャラを徹底比較してみようと思う。
主人公はどちらも女子高校生。外見はどちらも黒髪セミロング。顔のパーツも似ていて、まあまあ可愛い、というのも同じ。作者は人物の描き分けがかなり上手いのにもかかわらず、ここまで見た目が似ているのは、敢えて似せている、という事だと思われる。
次に競技の実力と人気を比較してみる。柔は柔道、幸はテニスである。柔は幼少期から、毎日欠かす事無く稽古をしており、対戦して負けた事は無く、48kg以下級の選手でありながら、オリンピックの無差別級で金メダルを獲るという凄まじい実力の持ち主。ゆえに柔は日本ではもちろん、世界でも人気のスーパースターであり、国民栄誉賞も受賞している。
一方幸は、中学時代に全日本ジュニア選手権で優勝した後、家の事情によりテニスは出来ず、3年ほどのブランクからの復帰。負ける事もあるが、最終的には女王サブリナ・ニコリッチとの試合で劇的勝利を収める。周囲の策略や運が悪い事もあり、コートではブーイングを浴びせられる事も当たり前の悪役。圧倒的に観客からは嫌われていたが、ニコリッチとの試合でやっと歓声を浴びる。
柔は圧倒的強さのスーパースターで、幸は這い上がって強くなっていく悪役。応援してくれる人が少ない中で、目標に向かって諦めず努力していくところが幸の素晴らしさであり、この作品の面白いところではあるが、やはり柔の存在と対比させたかったのか…?と思えるほど、二人の作中での人気は対極的である。
『松田 耕作』と『桜田 純二』
名前の感じも似ているが、外見も黒髮の短髪で似ているこの二人。松田は新聞記者、桜田は取り立て屋と職種は違うが、どちらも主人公の活躍を見守り続け、想いを寄せるという点は同じである。
主人公に邪険にされながらも、たまに頼りにされたり、近ず離れずな関係を保つも、主人公と結ばれたのは松田だけである。桜田はフィリピン人の女性と一緒になりフィリピンに移住。
個人的には桜田と幸には一緒になってほしかったのだが、桜田は日本に居ても追われ続けるだろうし、商売道具としてしか見ていなかった売春婦と一緒になり、家庭を築くようになるなんて、充分な成長を遂げたと思う。
主人公と結ばれた松田、結ばれなかった桜田、とすれば対照的であるが、両者とも最終的に幸せになったという事は共通している。
『風祭 進之介』と『鳳 圭一郎』
両者とも主人公が恋心を抱く、イケメンお坊ちゃんである。外見はトーンが貼ってあるやや長めの髪で、こんなに似せていいのか…?と心配になるレベルだ。主人公と同じスポーツをしていて、試合では力が発揮できないタイプ、というのも同じだ。
しかし当初から真逆のところもある。風祭は柔に想いを寄せつつも他の女性とも遊ぶプレイボーイなのに対し、圭一郎は幸の事が前々から好きだがなかなか想いを伝えられずにいる一途でウブなタイプであるところだ。この女性に対しての対応の違いが、似ている二人の生き方を全く違うものにしていったと思う。
風祭は将来安泰の可能性を無くしたくないが為に柔のライバルである本阿弥さやかのコーチをし続け、柔にいい格好しようと色々と取り繕い過ぎたせいなのか、柔からの信用度がだんだんと落ちていき、気持ちがフェイドアウトする様な感じで振られてしまった。結局は本阿弥さやかと結婚することになったが、一生さやかの言いなりとなるだろう。
一方圭一郎は、当初は母の言いなりに育ったお坊ちゃんだったが、幸の為に奮起し、プロを目指すが挫折し、一人暮らしとアルバイトを始めたりと、悩みながらも自分にできる事は何か、と模索し続けた隠れ苦労人だ。蝶子のコーチをしている時なんかは死んだ様な目をしていて、圭一郎 大丈夫か…?とかなり心配させられた。最後は周りの予想を覆して見事プロとなったが、幸と結ばれた様子はない。
外見と立場は似ているものの、二人の生き様にはかなりの差がある。自分を甘やかし続けた風祭と、厳しい道を選び不器用ながらも頑張った圭一郎。最終的には、比べた事が申し訳ないと思えるほど、圭一郎の方が立派な人間と言えるのではないだろうか。
『本阿弥 さやか』『加賀 邦子』と『竜ヶ崎 蝶子』
「YAWARA!」では柔と同じ階級で争い、風祭をめぐって恋のライバルでもあった本阿弥さやか。そして松田の同僚で松田をめぐって恋のライバルだった加賀邦子。竜ヶ崎蝶子はこの二人を合わせて、パワーアップさせた様な存在だ。
お金持ちでスポーツ界のアイドル的存在というところはさやかと蝶子は似ているものの、さやかは修行とも言える稽古を重ねに重ね、正々堂々と勝負を挑んできたかなり真っ当な選手であるのに対し、蝶子は実力はあるのにもかかわらず、幸へ度を超えた嫌がらせをして幸の人気を下げ、自分の人気を上げていく、悪魔の様な一面を持った選手である。
主人公には親切なふりをして嫌がらせをしてくるところは、加賀邦子と似ているが、蝶子の徹底ぶりは比にならないほどだ。最終的には素の自分をさらけ出し、テニスに専念するようになるが、幸と最後に戦ったときの執念に満ちた顔は恐怖を覚えるほどだ。
共通点は多数あるものの、さやかや加賀の性格を受け継ぎつつ、人間の嫉妬心や闘争心を深く掘り下げて描かれたのが蝶子だったように感じる。
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