6人の先生から思い出がよみがえる - せんせい。の感想

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せんせい。

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6人の先生から思い出がよみがえる

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
3.5
キャラクター
5.0
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5.0
演出
3.5

目次

6人の先生から自分を見つめなおそう

子供に読ませたい本のいつも上位に来る重松清。最初は子供のためにせっせと図書館から借りてきては読ませようとしてたけど、いつのまにか、私がどんどんはまっている。重松作品でも私が好きなのは、重たすぎるもの、悲しすぎるものじゃなくて、子供が読んでも面白いと言われる内容の本だ。

これは6人の先生が登場する。

ニール先生、ドロップス先生、ビンタ先生、にんじん先生、赤鬼先生、礼先生、は神様の涙6人の先生。

ニールの先生は好き、ドロップスの先生は大好き、ビンタは普通、にんじんは大嫌い、赤鬼は普通、気をつけの先生は嫌い。

結果として、私の小学生の子供にはまだ勧めないでおこうと思った。だけど、私は読んで素直に良かったと思った。読むと自分の小学生時代の幾人かの先生を思い出す。読むと思い出したくない先生まで思い出す。先生を思い出すのではなく、先生との思い出を思い出すのだ。

いい思い出も、悪い思い出も学生時代の自分の棚卸作業をしたような感覚になった。だが、当分読んだ後はまた読みたいと思わない本だ。それほど、先生であって一人の人間のダークな部分を見てしまうと、当時の私までかわいそうになってしまうからだ。

ニールヤングが好きだなんで、やっぱ昭和の青春だなあと思った。今の平成の若者はニールヤングを聴くのだろうか。先生とプライベートでギターを弾くなんて、今の時代考えられないが、私は昭和の人間なので、分かる気がする。先生はプライベートでも仲良くもなったり、露骨に嫌われたりもされたし、それがまかり通っていた時代だった。

先生だって人間だとはよく聞くけど、私はこの言葉がどうも好きになれない。あの時の、幼い私は先生は先生だ。「赤鬼」「にんじん」の先生が特に印象的だった。あんな先生がいるなんてと小説だからだろうと思われるのだろうけど、実際私の小学校、中学校、高校にまでいた。

気をつけ、礼の先生も昭和っぽい先生だ。中学の社会科の先生で、地元のキャバクラのマッチの箱をうっかり自分の机の上に置いているような先生でなんか似ていると思った。噂では酒と浮気で離婚2回してるだの聞いたことがあるけど、ほんとかどうか分からない。ただ、いつも竹刀をもって挨拶をしろと怒鳴っていた。声が小さいけど頭のいい生徒と声がでかくて挨拶はするけど、赤点取る生徒がいたら、この先生は声のでかい生徒をほめるタイプだ。

「にんじん」に復讐しよう

私にも、皆にも多かれ少なかれこの「にんじん」に出てくる先生がいたはずだ。私は卒業したので過去形だが、今も、にんじんのような先生に苦しめられている生徒がいると思う。読んでいると、感情移入してしまい、この生徒に代わって私が先生に復讐してやるたくなる気分にさせられた。

重松作品で、ここまで苦々しく読んだのは珍しい。復讐もただの後悔だけでなく、この先生の子供に同じような先生をあてがって苦しませたいとまで思ってしまう。ただこの大人になったにんじん生徒はずっと私よりえらいのだ、きちんと同窓会に行って、直接手をくださなくとも、一目見て、悪いことをしたと思わせるだけのスマートな復讐をしている。えらいなあ、大人だなあ。

あの時は悪かったと土下座してあやまってくれないかな、このにんじんの先生。

私を教室の皆が見ている前で履いていたスリッパで殴った先生に、私が復讐するとしたら、どう復讐するだろうか。おばさんになった私は、ママ友の飲み会の席で笑い話のネタにするくらいの思い出になっている。

自分が自分の先生になろう

「ドロップスは神様の涙」のような保健室の先生が私の学校にもいたらなと本当に思った。この保健室の先生に出会えただけでもこの本を読んで救われた。この保健室の先生のような温かさを今度は私も身につけようと思う。今はスクールカウンセラーという専門職が学校に常勤していたけど、私の時代は保健室の先生がその役目を担っていたふしがあって、小学校時代では頭がいたい、お腹が痛いと言っては行き、中学校にいたっては生理痛だと言えば簡単に行けたが、7割が本当だとして、実は3割はサボりだった気がする。でも、このサボりだって、理由があって心のSOSの生徒だったわけだ。私の理想の保健室の先生はズバリ、「金八先生の倍賞美津子」だがあの先生だって立派なカウンセラーだったと思う。

いつか先生に会うことがあったら、言いたい。「大人になればきっと分かる」と言われて、大人になった私だけど、やっぱり分かるような分からないようなことが、まだまだあるよ、先生。

今なら会ったら好き勝手言ってやろうと思う。もう勘弁してって思われるまで言ってやろうと思う。ししていじめっ子だった奴が地元の中学校の先生になったと聞いた時は、心底驚いた。この本送ってやろうかな。匿名じゃなくて、私の名前で。

「せんせい」を書いた重松清が今、早稲田で教鞭をとっているそうだが、潜り込んで私も一回生徒として授業を聞いてみたい。

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