松たか子さんの、悪い表情が素敵!
「夢売るふたり」を視聴した感想です。
見終わった後には、何とも言えない後味の悪さがあり、とても印象に残りました。
(後味が悪いと言っても、映画の出来が悪かったという意味では、もちろんありません。)
ラストシーンでの、松たか子さんの、「見てんじゃねえよ」と言わんばかりの、投げつけるような視線が特に印象的でした。
貫也が収監されてしまった後、玲子の部屋の郵便受けに、札束が無造作に入れられていました。
もちろん、里子が返済したのでしょうが、当然夫婦の状態も、里子の人間性さえ、お金を貰う前には戻りません。
貫也がいなくなった後、騙されたそれぞれの人々は、皆再スタートを切ることに成功しています。自分の足で立って、人生の舵を切る喜びのようなものが溢れています。
しかし、ただ一人里子だけは、暗い目をしています。
里子もまた魚市場で一人で働いていますが、決して幸せそうではありません。
犯罪に手を染め、夫を失い、生活基盤を失った余裕のなさと、残ったのは悪い方向へ変わってしまった人間性だけ、という結果を表しているようです。
また、最後に交差点で玲子と里子がかち合うシーンがありますが、玲子はここで少し微笑むんですよね。
まるで最終的にこの夫婦が決裂してしまうことを、最初から予期していたかのようです。
妻という立場の者への、玲子なりの異種返しだったのかもしれない、と思いました。
元々破滅の足音は聞こえていたのか?
この作品は、営む飲食店を火事で失い、平凡な夫婦だった二人が、結婚詐欺を犯すようになっていくというストーリーです。
冒頭では、献身的で気遣いのある妻だった里子が、夫である貫也の浮気をきっかけに、段々と豹変していく様が、狂気をはらんでいて目が離せませんでした。
里子は貫也に、新しい店を出店するため、結婚詐欺を強要していきます。
しかし、劇中でも触れられていますが、それは建前上のことで、実際はお金の為というよりは、貫也に浮気の腹いせをすべく、詐欺を働かさせているように見えました。
自分でやらせているのに、里子の心中は決して穏やかではありません。
まるで夫も、標的の女性も傷つけ、その代償として自らも傷ついているかのようです。
里子の目がどんどん死んでいくというか、暗くなっていくのが、見ていて痛々しかったです。
それほどまでに、最初の浮気に対して許せなかったんでしょうね。
里子はこれまでの人生を、貫也に献身的に尽くしてきたので、そのぶり返しもあったのでしょうか。
また、この作品は、店の火事と貫也の浮気を皮切りに、変わってしまった夫婦の物語ですが、夫婦の問題は元々あって、それが結婚詐欺をきっかけに、徐々に明るみに出始めただけなのかもしれないと思いました。
本編では言及されることはありませんでしたが、子供のいない夫婦というのも、大きく関わるテーマのように思いました。
本編で明言されているわけではありませんが、子供の話題を自然と避けるなど、二人の間で子供の話題がタブーとなっていることが伺えます。
夫婦とも子供をかわいがるシーンもあることから、子供が欲しくても出来なかったのだと思います。
貫也に「俺なんかと結婚してハズレだったと思っているに違いない」というセリフがあったことからも、貫也側に理由があっての事なのかもしれません。
貫也が店の再建に異様に固執しているのも、形に残るものを、夫婦で作りたかったのかもしれません。
皮肉なことに、最終的に貫也が里子を捨てて奔走した先は、シングルマザーの家庭でした。
里子とうまくいかなくなっていた所に、子供が店の再建をも上回る存在になってしまったのでしょう。
また、里子からすれば、そうした壁を受け入れてきた歴史が、貫也への憎しみを一層深くしたのだと思います。
貫也が奔走した翌日、女の元を里子が訪ねます。そして、あれだけこだわっていた板前の職をあっさり捨てて、新聞の折り込み作業を手伝う貫也への殺意を露わにします。
その時の松たか子さんの鬼の形相は、里子の、それまでの人生全てを否定されたかのような深い憎しみを感じさせました。
警察から、何もかも打ち捨てて、逃げる里子
また、終盤で貫也が警察に捕まった時に、里子は警察の影を察して逃げてしまいます。
本来でしたら、里子も犯罪の教唆の罪に当たりますから、一緒にしょっぴかれるべき所です。
しかし、その後里子は、まんまと逃げおおせた様子が描かれています。
これは夫婦の連帯責任から里子だけが逃亡した、つまり夫婦であることを放棄した場面のように見えました。
まだ夫婦としての絆があれば、まだやり直せる可能が残っていたら、一緒に捕まるような終わり方だったのかな?と思います。
しかし、そうはなりませんでした。
殺意を抱くほどに貫也に対して情が残っていたシーンもありましたが、それに対して警察から逃げるシーンは、呆気ないほど逃げ足が早く、無様な逃げ方を晒していました。
まるで「自分が一番大事」とでもいうようです。
これが本当の、夫婦としての終わりだったのかな、と思いました。
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