「ダウントンアビー」に影響を及ぼした作品 - 日の名残りの感想

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「ダウントンアビー」に影響を及ぼした作品

4.04.0
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

色々と話題の作品

2017年ノーベル文学賞受賞で話題になったカズオ・イシグロ氏の小説「日の名残り」が、アンソニー・ホプキンス主演で映画になっていますね。1993年公開の古い映画ですが、さっそく観てみました。ノーベル賞受賞作家の作品だからというより、大好きなドラマ「ダウントンアビー」に大きな影響を与えた映画というのが興味を引かれた1番の理由です。伝統あるイギリス貴族の没落、古城と田園風景、そしてバトラー・・・もう、それだけでもロマンティックです!

はじまり

1958年、ダーリントン邸が売出されるシーンから始まります。館の壁に掛けられていた絵画が次々とオークションにかけられ、後に所有者となるアメリカ人が落札していきます。過去の栄光が解体され売りに出される、物語の始まりは寂しいです。老齢の執事スティーブンスが、まだ貴族社会が厳然と存在していた20年前の華々しい日々を想い、映像は現在と交差しながら話は進みます。

この時代

老執事が懐かしく思い出すのは1920年前半からの出来事。ロシアでは貴族たちが国外追放され、ドイツではヒトラーが首相となり、ファシズムの嵐が大きく吹き荒れていく時代です。ダーリントン邸では各国代表が集まり、自分たちは優越種族であると信じている貴族らによる政治が秘密裏に行われています。執事スティーブンスは、“考えのない下等な人種”と扱われて馬鹿にされますが、その場所に自分がいてイギリス首相に給仕していることに対し、とても誇りを感じています。そして、この時のアンソニー・ホプキンスがとてもいい。実際に庶民にとって大きなお屋敷の執事は誇れる職業だったのでしょう。スティーブンスの仕事への忠誠と矜持、そして階級制度を当たり前に受け入れている。これは日本人にはとても共感できると思うのです。イシグロ氏が、日本人であることが自身の作品に大きく影響しているとインタビューで答えられていましたが、このスティーブンスの、馬鹿にされても黙して語らずという姿は、まるで日本映画に出ている高倉健みたいでした。

ダーリントン邸

この映画の見どころの一つ、いえ、影の主役とも言えるのは映画の舞台となったダーリントン邸です。外観はダイラムパーク・カントリークラブで撮影され、内部はパウダーハム城、コーシャムコート邸、そしてバドミントン邸で撮影されました。今ではどこも観光地になっていて、時には結婚式として、またはヨガやフラワーアレンジメントの教室として利用されているようです。日本のお城もそうですが、誰でも入れるようになるのも、不思議と寂しい気がします。消え去るものへの感傷でしょうか。今ではもう一片の「日の名残り」も無くなってしまいました。

気になる出演者たち

アンソニー・ホプキンス:執事スティーブンス

私には、アンソニー・ホプキンスは「羊たちの沈黙」(1991年)のイメージが強くて、アンソニー・ホプキンス=ハンニバル・レクター博士以外の何物でもない、それ以外の役が想像できない!と、思っていましたが、いい感じで見事に裏切られました。そこにいたのは、愚鈍と言っても良いほどの不器用な、イライラするくらい小心で実直な男でした。

 

エマ・トンプソン:ミス・ケントン

ミス・ケントンはダーリントン邸の家政婦長で、ヒロインですが地味。まあ地味さがこの映画の良さですが、「ハリー・ポッター」でホグワーツ魔法学校のぶっとんだ先生役も見ているので、彼女の演技のうまさに舌を巻きました。最近では「美女と野獣」のポット夫人にもなっていましたが、とにかく色々な映画に出ている印象がありますね。イギリスを代表するアカデミー賞女優です。

 

ヒュー・グラント:カーディナル(ダーリントン卿が名付け親の、若い新聞記者)

カーディナルが出てきたとき、「ん?この俳優さん、とっても知っている気がするけど、だれだっけ?」と思いました。何度も見ているはずなのに、なかなか思い出せない。それもそのはず、私が知っているヒュー・グラントより随分と細いのです。シュッとしていて、機敏に動く。私の知るヒューは、「ノッティングヒルの恋人」(1999年)あたりの、ゆるりとした雰囲気の俳優さん。なんだかお宝映像を見たお得感がありましたね。

クリストファー・リーヴ:ジャック・ルイス(ダーリントン邸を購入したアメリカの政治家)

ギリシャ彫刻のように美しいクリストファー・リーヴ様でした。この時は40歳くらいでしょうか?全体的に地味な見た目の出演者が多いこの映画に華を添えていました。20代で撮影したスーパー・マンは単純な漫画のキャラクターなので味わいはありませんでした。しかしこの映画では、冒頭のオークションシーンで売り出されていた絵画を他人に渡さないよう自らが落札し、そしてあるべき場所に戻していきます。過去シーンの各国大物政治家が集まる会議では、あまりに時代遅れで世の流れを読めない貴族達を批判し、対立していましたが、現在のシーンでは消え去った貴族たちの名残りを集め戻すことをしています。そういえば急激に近代化した日本で、武士の時代の名残りを集めていたフェノロサもアメリカ人でしたね。落馬事故後のクリストファー・リーヴの方が記憶に残っていたので、この映画で在りし日の彼を見ることが出来て涙ポロポロです。

印象

1958年のダーリントン邸に、過去の風景が折々に挟まれてきます。貴族も使用人にも隔てなく関わってくる時の流れに、日本的な無情感を感じました。その後の出演者たちの変遷もあり、公開当時ではなく、今、この映画を見たことも「日の名残り」モードを高めたかもしれません。

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英国俳優の会話劇と他者から見た英国の姿

作品概要『日の名残り』(1994年)は、日系イギリス人作家カズオ・イシグロの同名の小説の映画化作品である。監督にアイルランド系アメリカ人監督ジェームズ・アイヴォリー、主演にアンソニー・ホプキンスを据えて製作された。世界一の大国として君臨した大英帝国が、2つの大戦を経て力を失った後日譚を、貴族の屋敷に使える執事スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)の視点で描いている。原作との大きな違いは、小説がスエズ戦争直前の1956年を舞台としているのに対して、映画がスエズ戦争後の1958年に設定されていることである。スエズ戦争は英仏イスラエル軍とエジプト軍がスエズ運河の利権を争った戦争であり、米ソの介入もあり、エジプト軍の勝利に終わり、大英帝国及びヨーロッパ中心の世界の終焉が決定づけられた戦いである。原作は2つの大戦とスエズ戦争を背景にして、英国の史実とフィクションを合わせたところに面白さがあるが、映画はそういった...この感想を読む

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