異色の新世代ガンダム
現実世界を反映させた新たなるガンダム
本作はガンダム作品とした初めて西暦を使用し、ありえるかもしれない未来を描こうとしていた。世界観の根幹になっている三大勢力は特に現実の世界情勢なども取り入れた意欲作だった。当時、世界的な影響力を高めていた中国を中心としロシアをも取り込んだ「人類革新連合」、EUがそのままモデルとなっている「AEU」、アメリカや日本という枠すらもなくなった多民族、多文化の勢力「ユニオン」。現実にできるかどうかはともかくなぜこの三つの勢力になったのか納得できる設定だった。物語の鍵となる軌道エレベーターも実際に検討されている技術でもあり中東の不安定な情勢なども取り入れ」現実に限りなく近い世界観で作られていた。それまでのガンダム作品にはなかった美麗なキャラクターデザインや近未来的なモビルスーツデザインも好評で劇場版まで作られた人気の作品となった。しかし、僕個人の考えではあるがこの作品は史上最悪のガンダム作品であり同時に腹立たしい作品でもあった。
美麗で激しく動きはするが既視感を感じさせる戦闘
この作品の大きな魅力として丁寧に描かれた戦闘シーンがある。粒子を巻きながら激しく動き回る戦闘は歴代のシリーズでも上位の出来であった。しかし既存のものを現代風の絵にしているだけで、それまでになかった新しいものは少なかったと思う。ファングと名前は変えているがどう見てもそれまでにあったファンネルであり、粒子を大きく広げ羽のように見せているのは∀ガンダムの月光蝶を思い出させた。00ガンダムの背中に戦闘機が合体するのはスーパーガンダムだろうし、本作を代表する発動すれば出力が三倍になる「トランザム」もレイズナーのV-MAXなどにもみられるベタなシステムだった。結局ほとんどの戦闘が離れればビームを打ち近づけば鍔迫り合いを多用する切りあいといったきれいではあるが斬新ではない戦闘だったので残念に感じてしまった。
異常なる組織ソレスタルビーイング
これまでのガンダムシリーズの大まかな展開は極端な思想に取りつかれた一部の勢力が戦争を起こしせれに対抗する主人公たちを描くというのが大まかな流れだった。本作の主人公たちは全く逆で「平和のため武力介入」と称し自らが仕掛ける側となって世界のすべてと敵対することとなる。彼らは軍やテロ組織の施設やガンダムの圧倒的な力を使い破壊していくのだが、いったいどこを着地点としてそのようなことをしていたのか最後まで不明なままなのだ。本編でもそんなことでは平和にならないといわれていたが軍や武器がなくなれば平和になるということではなく、それらを持ってしか解決できない状況こそが問題なのだ。ただ武器がなくなれば平和になるというのはあまりにも短絡的な考えだろう。おそらくはそのように極端な行動を起こすことで世界に革命を起こし何らかの形で平和を作ろうとしていたのではと思われるがその計画は世界を支配しようとするわかりやすい敵の登場で計画そのものがうやむやになり破綻してしまった。
そもそも計画を実行していたソレスタルビーイングというのが非常に不可解な組織であった。世界に革命を起こす壮大な計画を行っているにしてはあまりにもお粗末な行動ばかりしているのだ。まず第一におかしいと思ったのはガンダムの拠点となる輸送艦「プトレマイオス」である。この艦はガンダムを積んでいなければ長時間の運航ができないという謎の設定がある。GN粒子を使う推進装置を使っているせいなのだが通常のものを使ってはいけない理由は最後まで明かされなく謎としか言いようがない。輸送艦なので武器は一切搭載されていないのだがなぜか砲撃士はいる。一応予備パイロットを兼ねてはいるのだがそれならば予備パイロットという名目だけでよかったのではないだろうか?結局彼は後に追加武装が来るまでなんの見せ場もないキャラクターとなっておりそれならば装備と一緒に配備されればよかったのではと考えてしまう。艦の搭乗員は十人に満たない少人数であったがそれゆえに優秀な人材をそろえた少数精鋭なのだと思っていた。しかし操舵士が注意を怠ったせいで敵に捕捉されピンチに陥ってしまう。本職のオペレーターが席を外していたせいもあるがオペレーターを一人増やしておけば防げたことである。そんな基本的なこともしていなかったのは自ら進んで墓穴を掘ろうとしているようにしか見えなかった。
僕は本作の中で一つどうしても描いておかなければならないと思ったことがある。ソレスタルビーイングのメンバーがこの計画に参加することを決めた経緯は書かなければいけなかっただろう。はたから見れば無謀な計画で成功したとしても本当に平和になる保証はない。命がけになるこの計画に参加する決意をしたきっかけを描かなければ、何の保証もない計画に参加してしまった考えなしの集団になってしまうのだがそれが描かれることはなかった。これらのことによりソレスタルビーイングとは人員も少なく計画も中途半端のまま進んでも何一つ疑問を持たない狂気の集団に僕は見えてしまった。
本作を象徴するおかしなシーン
本作には理不尽としか言いようがないシーンが多数あるのだが特にひどいシーンがある。主人公である刹那とヒロインのマリナが出会うシーンなのだが思い出しただけで頭痛がしてくるような恐ろしいものだった。刹那がなぜかある国の要人を暗殺することになりそれに失敗して逮捕されたところをマリナに助けられるというものなのだが突っ込みどころが満載である。四人しかいないガンダムマイスターがなぜかパイロット以外の任務を行うのだがなぜかバックアップもなく彼一人で行うのである。ソレスタルビーイングの人員不足は深刻だなと心配になった。ここで刹那が何か超人的な技能を発揮して一人でも成功させればよかったのだが彼のとった行動はターゲットの乗っている車にバイクで近づき銃で撃つという雑なものだった。国の要人の乗る車なので当然防弾処理がされており暗殺は失敗。警察に追われることになるのだが抵抗らしいこともせずあっさり捕まってしまうのだ。あまりに簡単に捕まったので何か捕まる目的があるのかと思ったほどだ。それを見たマリナが刹那を解放するのだが、一国の王女とはいえ国の要人を暗殺しようとした犯人を解放すれば間違いなく国際問題になるはずだがどんな権力を使ったのか刹那は無事解放される。それほどの危険をおかして助けたので何か二人には過去につながあったのではと思ったがその時点では二人は初対面だった。マリナはなぜ見ず知らずの凶悪犯を危険を冒してまで助けたのか狂気に取りつかれたとしか思えない。その後二人はお互いの考え方などを話すのだが刹那は聞かれてもいないのにソレスタルビーイングのガンダムマイスターであることやコードネームまで暴露する。刹那にも狂気が蔓延したとしか思えなかった。おそらくはソレスタルビーイングの活動を聞くたびに刹那を思うマリナという構図を作るためのシーンだったのだろうが、あまりにも理不尽でご都合主義なシーンだった。
人気の出た要因
ここまでかなりたたいてしまったがよい点ももちろんあった。コーラサワーやのちにミスターブシドーになるグラハム・エーカーなどはガンダムシリーズ屈指のキャラクターであるし、ロックオンの死亡シーンは涙な市には見れない名シーンであるのは間違いない。それゆえに脚本家なり監督なりがきちんと整合性をつけていればよかったのにと思わずにはいられないのである。
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