革命家にもいろいろな種類の人間がいる
歴史モノっておもしろい
フランス革命に至るまでの、革命家たちやそれに関わった人たちの物語を描くフィクション。ストーリー展開はとても緻密で、ノンフィクションでもこんな感じの話がありそうなくらい。革命が起こったという事実は知っていても、その時どうやって革命を起こしたのか、人を集めた方法や革命を起こそうと決意するまでの苦悩など、細かく描いてくれているから共感値も増す。革命を起こそうっていう人たちの活動の根っこを見れる漫画だ。
革命は偉大な功績だったかどうか。それは今になってみればわかるが、当時はそんな振り返りなんてできないくらい、相当な労力と時間、お金、命を費やしたことだろう。その始まりがギデオンのエロ本とはなかなか思いつかない。どうしようもない男なのかと思いきや、エロ本に貴族・国王の風刺を描き、民衆に「何かがおかしいと思わないか?」と言葉を伝えていたのである。一方のジョルジュは、言葉ではなく暴力によって国家の在り方を逆転させようと考えている人物。2人は義兄弟として分かり合えるはずなのに、貴族とその使用人であった身分の違いから、それが足かせとなっていた。ギデオンは幼き日にジョルジュの目を傷つけてしまった罪を感じていたし、ジョルジュは本当は自分のほうが平民だったことに気づいて愛されていないことに絶望した過去を持つ。2人がつくろうとしているものは同じ国家転覆・民衆が主役となる世界。ギデオンとジョルジュは、根本のところで結びつきの強さに欠けていた。それもまた面白い要素で、どこで2人を引き合わせるのか、むしろ引き合わせることなくいずれか・もしくは両方が死ぬことになるのか…どのエンディングも想像できるからこそ、興味の尽きない漫画だ。
闇があってこその人間だ
ギデオンとジョルジュを比べたら、そりゃージョルジュのほうが随分とひねくれた方向になってしまった。左目をわざと失ってまでギデオンを逃がしたかったのか、それとも自分がこの屋敷で貴族でい続けるためにギデオンを追いやったのか…どちらなのかを問われればおそらく後者のほうが強い。自分がギデオンよりも下だなんて認めたくないだろうし、もう父親からの愛情がなくなってしまうのかもしれないと思ったら、そっちのほうがずっと怖いもの。体を傷めつけられるよりも、プライドが傷つけられることのほうがずっと痛いのだ。
確かにギデオンを自分の大事な友だちだと思っていたことも確かな事実。どれが自分の気持ちなのかがわからなくなって、それでも自分を正当化したくて、ギデオンに嘘をついたことを悔やんで…大人になったらもう後戻りはできなかったジョルジュ。それでもまだ、どこかで共に歩む生き方ができないだろうかと、私も思っているよジョルジュ。
あらゆる歴史において、何かを成そうとする人間には闇があり、それがバイタリティとハングリー精神につながっている。誰かにバカにされれば見返そうとするし、大切な人を奪われたらどうにかして殺してやろうと思う。痛めつけられた人間ほど、人の痛みがわかるのだ。だからこそ、マリーみたいな生き方をする生き物を、民衆は理解することができないんだ。貴族たちは囲われた城の中で、何不自由なく欲しいものを手に入れ、ワガママの限りを平気で悪気なく行い、間違っても誰かが正してくれるし、誰からも否定されない。強くなるには、傷つくことが必要なんだ。
ギデオンの悲しみ
ジョルジュがギデオンに対して憎しみと愛の両方を持ち合わせていたのとは逆に、ギデオンはジョルジュを信じている。平民だから苦労したこともあったけれど、そんな自分に対等に接してくれたジョルジュに感謝しているのだ。そして、同じ革命家を志しながら、暴力的な方法を使おうとするジョルジュに、責任も感じている。自分が彼を傷つけたことが、少なからずこんな道を選択してしまったことに関わっているのかもしれないとか、ギデオンも悩み苦しんでいるのである。
お互いに大切にしている気持ちは変わらないのに、うまくいかないね。身分の差って何なんだろうね。それを解決したくてこんなことやってるって言うのに、分かり合えないんだね…
ここで思うのは、2人にとってはつらい決断だったかもしれないけれど、そのおかげで改革は成されたと思うんだよ。そうやって様々な角度から考えられる人間がいたからこそ、柔軟に対応できて、革命を起こせたんだと思うから…。
ギデオンが剣を取ることはおそらくここからの展開では考えにくい。ジョルジュと完全に方向性を別にしつつも、攻め入るポイントは共通の部分でいくのだろう。「言葉」は偉大であり、言葉に救われる人だってたくさんいる。言論で飯は食えないが、心を豊かにすることはできるし、その言葉を糧にお金を得られるように挑戦する人も現れる。邪魔な人間を消すことも必要かもしれないが、血を流さない方法でできることだってたくさんあるはずだ。
一人娘の反抗期
汚い世界を見せまいとしてソランジュを育ててきたギデオン。大切に守り、娘のためにいい世の中にしたいと活動をしてきた部分が大きい。しかし、ソランジュはそんな過保護は親の元を離れて、より危険なジョルジュのもとへと走る。美しさに惹かれただけではない。堂々と、革命への最短経路を歩んでいるように見えたのだろう。それは恋だったかもしれないし、好奇心だったかもしれない。何より、子どもではなく1人の女性として接してくれるジョルジュに、父親とは違う面をみたのだろう。
引き受けたジョルジュにとってのソランジュは、ギデオンの娘だから置いてやっただけの話で、全然恋なんかじゃない。ギデオンの築いた家庭というものに、興味が湧いたんだと思う。ソランジュはそれが面白くないって思ってた部分もあるだろうけど、受け入れてもらえないことも分かっていたりして…やっぱり、ギデオンよりもずっと精神的に大人なんだなって思った。
最終的に、ソランジュはギデオンのもとに帰ってくる。様々な経験をして、より賢くなって。彼女の見聞きした世界が、ジョルジュとギデオンをつなげてくれると嬉しい。ジョルジュとギデオンがもしかしたら死亡エンディングかもしれないのだが、ソランジュは絶対死なないポジションだろう。きっと彼女が語り継いでいくだろうし、意志を継ぐものとして活動もするかもしれない。さすがギデオンの娘!泥臭く生きていく…まだそうなっていないけれど、ソランジュについての予測はかなり手堅い。
みんなが野心を持っている
国家をぶっ壊そうという目標が同じだったとしても、その裏の本当の目的は実に様々だ。彼らは、いま目の前にある自分の問題を解決するための手段を探しているのである。その方法に、この時代では革命が選ばれた。いつまでも従い続けるより、反旗を翻そうと決める民衆たち。バカな人間を王にするより、自分たちで話し合ってなんでも決めたい。そして、がんばった分だけお金を手にしたい。自由を手にしたい…そう考えると、どの時代も何らかの制約に縛られて、いつもやりたいことができないままだよね。現代だとみんな時間がないって言うだろうなー。
結果的に、長い目で見たら革命だったと思うことも、その時代・その時にクローズアップしてみたら本当些細なことだったのかもしれない。しかしそのためにがんばった人の数は膨大なもの。それぞれがそれぞれの叶えたい夢のために生きているんだなーとしみじみとする。
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