真実だからこそ深みのあるストーリー
当たり年の当たり映画
この辺の年の映画は(この年だけでないけれど)本当に当たりが多い。「マディソン郡の橋」「マスク」「アウトブレイク」、前後したら「フォレスト・ガンプ」に「ギルバートグレイプ」と、枚挙に暇がない。この「アポロ13」ももちろんその当たりの中に入る。そしてただの“すごい映像”だけでないストーリー展開に、今これくらいの映画がなかなかないことが実感できる。
キャストも豪華だ。トム・ハンクスはもちろんケビン・ベーコン、ゲイリー・シニーズ、ビル・パクストン、エド・ハリスなど一人で主役級の俳優がどんどん出てくる。こういうのも90年代の映画の醍醐味だったりする。
このストーリーは実話を基にしている映画だ。実話を基にしているというとついつい面白そうと感じてしまうけれど(実際面白いのもあるのだけど)実話なだけに展開にさほど動きがなく、ドキュメンタリーの様相を呈しているものも多い。そうなってしまうと最後まで見るのがつらくなってしまったりするのだけど、この作品に関してはそれはない。展開はドラマテッィクで、さながら「真実は小説より奇なり」を地でいっているような感じだ。
もちろんストーリーだけでなく、俳優陣の奥深い演技のおかげでもある。ストーリーはもちろん、この俳優たちの演技を見るだけでもこの映画を見る価値があるくらい、素晴らしいものだった。
アポロ13号の皮肉な運命
アポロ計画で初めて月を土を踏んだアポロ11号から17号まで月面着陸には唯一失敗したアポロ13号だけれど、この失敗は“成功した失敗”とも言われ、後に続くアポロたちに大いなる影響を与えたのだろう。そして彼らの類まれな勇気と行動が映画になったのも当然のことだ。当時のことを知らない私たちからしたらこの豪華なキャストで再現された当時の様子を見られるのはとても幸運なことでもあり、映画ということで情報でだけでなく、当時の文化や服装までも同時に知ることができる。例えばアポロ13が事故に見舞われ、親族など関係者がマリリンの家に集まってテレビ放送を固唾を呑んで見守っている場面がある。その皆の服装などはもちろん家具や家の内装なども当時を感じさせ、つい見入ってしまうところでもあった。
日本でもアポロ11号の様子はテレビで放送され、多くの人々が宇宙に夢を馳せ、そして多くの未来の宇宙飛行士を生むことになったと思う(マンガ「20/21世紀少年」でもその描写があった。日本でもあの時代が羨ましかったりする)。しかし、一度成功するとその後の成功は当たり前になってしまうのか、アポロ13ともなるとそれほど国民の熱狂的興味はなかった。だから彼らが宇宙から無重力状態で送ってきたテレビ放送用の楽しげな映像も結局は放映されずじまいだった。それほど関心を向けられなかった彼らだけれど、皮肉にもこの事故によって注目を浴びることになってしまう。
演技の凄さを目の当たりに出来る素晴らしさ
アポロ13に搭乗員として乗り込むことになったトム・ハンクス演じるジム、ゲイリー・シニーズ演じるケン、ビル・パクストン演じるフレッドだけれど、出発前の血液検査でケンは風疹に感染しているという結果がでてメンバーから外されてしまう。代わりに選ばれたのがケヴィン・ベーコン演じるジャックだけれど、明らかにケンよりは経験不足のような印象であり、また3人でずっとやってきたという自負もあり、なんとなくジャックの存在が不安材料のようになっていた。だからジムがケンを替えるか3人での搭乗を見送るかという決断を促されたとき、もし次回3人で乗れるのであればそうしても良かったのではないかと思ってしまった。ジムが拘っていた訓練の描写が少なかったからだ。その苦労よりも3人でいることの強さが描写が強かったのでそう感じたけれど、実際そうなっていたら映画になっていなかったのだから、そこはどうしようもないかもしれない。
しかし降ろされた時のケンの表情は、ゲイリー・シニーズしかできないとも思えるような、表にできるだけ出すまいとしても溢れてしまう怒りと悔しさという感情がにじみ出ていた(彼は「フォレスト・ガンプ」でもフォレストに自分の意に反して助け出されてしまい、自分の思いと裏腹に生かされてしまった怒りの描写が秀逸だった。彼はそのような怒りの演技がとても印象的だ)。
ケンは結局アポロ13が帰還するまではもちろん、最後まで風疹を発症することはなかった。その代わりに、血液検査はなんともなかったフレッドが高熱で悩まされたのは皮肉なことかもしれない。
ケンが地球に残されたことは、結果アポロ13にとっては良かったことだろう。電力を省略して船を再起動させるプランは彼しか考えられなかったのだから、彼なしではアポロ13は地球に帰還はできなかった。皆がアポロ13の無事をテレビで見守っている中、ジムがジムがインタビューを受けている場面があった。命の危険を感じたことはあるかという質問に、飛行機内の電気が全て消えてしまったため海中の燐光性の藻によって母船に導かれたことを示し、「何が幸運になるのかわからない」と話した。ケンが風疹で搭乗できなかったことは、結果アポロ13にとっては幸運だったことに違いない。
脇役といえど個性豊かな俳優たち
ケンと入れ替わりにメンバーになったジャックだけれど、始めは明らかに経験豊かで知能も高そうなケンに比べ、頼りなさが隠し切れなかったけれど(きっと自分でもそう感じていたからだろう)、徐々にその自信を取り戻していっている様子をケヴィン・ベーコンがうまく演じていたと思う。特にドッキングの時に心配そうに見守るジムに対して、言葉でなく表情で心配するなと伝えた演技がとても印象的だった。
トム・ハンクスの演技は言うまでもないが、彼がでてくるだけで映画にはある種の深みが生まれるように感じる。挙げればキリがないけれど、例えばロケット発射の時来ないと言い張っていたマリリンが来たことに気づいた瞬間の表情など、役になりきっていないととっさに出るものではないように思えた。
エド・ハリスの今回の主席管制官の役もはまり役だ。「トゥルーマン・ショー」でも同じような役をしていたけれど、冷静で理知的な彼の表情が時々緊張で崩れるところ、特にアポロ13のメンバーが無事帰還したところなど、大げさな演技でない分心に来るものがあった。
他にも「ターミネーター2」のザンダー・バークレーや(この人は「24」とか「ガタカ」とか「ミディアム」とか「メンタリスト」とか本当によく出ている。しかもチョイ役でないのがまたすごい)、「ギルバート・グレイプ」のメアリー・ケイト・シェルハートなど、色々出てくるのでそれを見つけるのもまた別の楽しみ方だと思う。
娯楽映画としての楽しみも
他にもアクションパニック映画らしいいい場面もたくさんある。ジムが計算した数値を管制官たちが検算して皆がOKを出す場面や(かっこいいだけでなく、気持ちがよかった)、大切な時にマリリンが結婚指輪を排水溝に流してしまったことの不吉感(あれが次のシーンまで長引かなかったのが意外ではあったけれど)、アポロ13が絶望とされる3分を超えて帰還するまでの静寂感、そういった娯楽要素もきちんとあり、シリアスだけでとどまらないところも気に入っている。
この映画は10回ほど見たけれど、いつ観ても最後の帰還のシーン、管制塔でのエド・ハリスやゲイリー・シニーズの演技、またメアリー・ケイト・シェルハートの泣き演技にはいつも見入ってしまう。この映画は、何回観ても面白いというのはやはり映画の面白さの評価のうちに入るなあと実感できる映画ではないだろうか。少なくとも私はそう思う。
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