綺麗事だけじゃない、働くことの意味とは。
就活生は必見。
集団討論の内実、評価のポイント、ESの書き方コツなど、実際に就活をしている人にとってためになることが凝縮されている一作だ。例えばインターンシップの描写では、自分より容姿の良いインターンシップ参加者への優遇、社内の実態を知ったときの驚きなどがある。就活生にとって非常に共感することができ、勉強にもなり、自分自身を今一度見つめ直す機会ともなる充実した1冊であることに間違いはない。
ところがこの本、それだけじゃない。
就職活動に興味のない人は、もしかしたらこの題名を見て「自分には就活なんて関係ない」とスルーしてしまうかもしれない。しかし!それは非常に勿体ない選択である!
というのも、本作は誰もが一度は疑問に思うであろう、「なんのために人は働くのか」について考えている作品とも言えるからである。
有名大学卒業後、就職活動に失敗し再就職が出来ずアルバイトを転々とする海老水。大手出版社に勤め始めるもすぐに転職を考えだすOB。
主人公は彼らを批判的に捉えている。しかし現代において彼らのような境遇は珍しいものでなく、むしろそういった状況が社会現象と言えるほどである。
そうした人の話を聞き、自分なりに働く意味について考える主人公は、ページが進むにつれてどんどん成長しているのが分かる。自分について、また社会について、もう一度考え直すきっかけとしても本作はとても有益なのではなかろうか。
色々な要素が詰まったサイドストーリー
繰り返しになるが、本作は就活の極意をただ連ねているものではない。例えば良弘と主人公との青春ストーリー1つを取り上げる。するとそれだけで1つの作品が完成してしまいそうな中身の濃さがあることが分かる。主人公が良弘に告白された時、主人公は迷うことなく断った。でも、それは良弘が気にくわないからではない。就活がうまくいったらもう一度告白する機会を良弘に与えている。このことからも分かるように、主人公は、就活と恋を同じ土俵で考えたくなかったのであろう。「就活の悩みを気軽に打ち明けられる存在」としての恋人関係であるカップルもたくさん居る。そうしたなか、恋は恋として他の次元で考えている主人公はとても頼もしく、潔い印象を受けるのだ。一方の良弘も、断られたにもかかわらず非常にすっきりした表情だったという描写がある。彼らは双方とも、「就職活動に便乗した恋愛」に疑問を持ちつつ、自分のなかでの最適な答えを求めて試行錯誤している。その様が青春ならではでありつつ、共感性を併せ持った濃いサイドストーリーであると思う。
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