痴人の愛の評価
痴人の愛の感想
耽美主義の作家・谷崎潤一郎の観念や美意識が生み出した魔性の女ナオミ
作家の三島由紀夫は、彼の著書「作家論」の中で、谷崎潤一郎の耽美主義的傾向の一連の作品、「痴人の愛」のマゾヒズム、「卍」のレスビアニズム、「秘密」のトランスフェティシズム、「金色の死」のナルシシズムなどについて、「氏の小説作品は、何よりもまず、美味しいのである。支那料理のように、凝りに凝った調理の上に、手間と時間を惜しまずに作ったソースがかかっており、ふだんは食卓に上がらない珍奇な材料が賞味され、栄養も豊富で、人を陶酔と恍惚の果てのニルヴァナへ誘い込み、生の喜びと生の憂鬱、活力と頽廃とを同時に提供し、しかも大根のところで、大生活人としての常識の根柢をおびやかさない。氏がどんなことを書いても、人に鼻をつまませる成行にはならなかった。」と書いています。私はこの三島の谷崎論の中で語られている、"陶酔と恍惚"と、"生の喜びと生の憂鬱"と、"活力と頽廃"という言葉が、谷崎の一連の耽美主義的傾向の作品のキ...この感想を読む
痴人の愛 考察
まじめな男が美少女に恋をした結果、人生が転落していく話。まじめな男が美しい女に恋をした結果、振り回されて人生が破綻してゆく、というのは他の作品や映画にも見られるテーマである。女性に不慣れで真面目であるからこそ、突然現れた美しい女に盲目状態になってしまうのだろうか。いずれにしろ、読んでいて面白い題材であることに変わりはない。この物語のヒロインである「ナオミ」は、今風に言うと性格の悪い女である。これに肉体的な美しさが伴っているからこそ、絵になるというものであろう。そもそも彼女が不細工であったら、主人公である河合譲治も気にもとめなかったはずである。物語が進むにつれてわかってくることだが、ナオミは貧乏な上、十分に愛されずに育ったようである。知らない男の申し出で簡単に娘を簡単にに委ねるというのも、親としてまずどうかしている。そういったことからおそらくナオミは両親から十分な愛や関心を受けずに育って...この感想を読む
コケティッシュなヒロイン
話を通じて、ヒロインであるナオミという女性のキャラクターの魅力が中心になっています。そのナオミを崇拝し、かしづき、奉仕し、なんとか手に入れようとする主人公がさんざん振り回され、金を散財して時間と人生をすり減らすというなんとも破滅的でありながら、愛の一つの形として現代にも通じるものです。発表当時は封建的で男尊女卑が色濃く残っていて、西洋の女性崇拝とマゾヒズムを一体化したような作品は、新鮮で驚きをもって受け止められたそうです。ただ現代から見ればこういった男を振り回す女性は数多く存在しますし、その点は物足りないかもしれません。しかし当時の近代と昔の風俗の入り混じった中での魔性の女ともいうべきナオミは、小説史上に足跡を残す存在だと思います。
痴人の愛の登場キャラクター
河合譲治
よみがな:かわいじょうじ ニックネーム:君子 年齢(作品時):二十八 性別:男 国籍:日本 住まい:芝口の下宿屋、大森、お粗末な洋館 所属:大井町の会社、或る電気会社の技師 趣味:活動写真を見に行く、銀座通りを散歩する トラウマ:ナオミの家出 月給:百五十円