小説や実写を超えた漫画
医療現場の現実に愕然とする
この作品を見て、佐藤秀峰氏の取材力に驚愕した人も少なくないと思う。若干誇張して描かれたり、変わり者の医師などは実際こんな人いないと、医療従事者のツッコミを受けそうなところはあるもの、医療現場の根っこにある矛盾や葛藤の描き方は、この作品が圧倒的であり、他の追随を許さない最高峰レベルであると言える。
マンガは子供が読むものという昭和の頑固おやじや教育ママ的思想を持った人は、この作品を読んだら漫画という媒体に対する考え方すら覆してしまう力を持っている。
中でもすい臓がんの中年女性を扱った第四外科編や、精神科編の描写は秀逸であり、自分がガンや精神疾患になった時に、どう病気と向かい合うべきか問題提起をしてくれる作品だ。
海猿同様一本気な主人公
海猿でも主人公仙崎は公務員でありながら、矛盾に感じることなどはどんどん口に出して先輩に思いをぶつけるタイプであったが、本作の主人公斉藤も、おかしいと思ったことはどんどんおかしいと先輩上司に思いのたけを言ってしまうタイプである。
このように長いものに巻かれないタイプの人というのは、現実的には組織にいると厄介者にされやすい困った人であり、(事実作中でも困った人扱いされている)組織から淘汰されてもしょうがないタイプなのだが、この作品においては斉藤がおかしいと思ったことをどんどんおかしいという人であるがために、医療現場の問題点が浮き彫りになるという良い効果を与えている。
また、斉藤の様な一本気の時期を経て一つの結論や方向性を見い出して医師をしてきた指導医が、斉藤に感化されて長いものに巻かれる姿勢から矛盾とできる限り立ち向かうようになっていく点も、読んでいて爽快感がある。
悩む辛さを疑似体験できる
各科の医師だけではなく、患者の見事な心理描写を通じ、読者は自分がその病気になっていなくても一種心情の疑似体験ができるような描写がされている。
第四外科編の患者、辻本良江とその家族の告知から絶望、病気を受容すること、後悔のない生き方の模索、家族への最期の言葉は、予後が悪く死を待つしかないガンにかかった患者とその家族の心理があまりに詳細に描かれているので、この部分だけでも切り取ってドラマ化できるのではないかと思っていたら、やはり薬師丸ひろ子さんを主役としてドラマ化されていた。
また、精神科では精神病に至ってしまった側の心理が、健常な人でも理解できるような見事な描写になっている。この作品は、日本の医療の問題点をはっきりさせ、アンタッチャブルだった領域を一般に知らしめるという意味では、大きな社会的役割を果たしたと言える。
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