お願い事をするってどんなことだろう
言葉より空気を感じてほしい
後継者は、その神社を守る神使を目でみることができ、会話ができる。代々そうやって冴木神社・ひいてはその地区全体が守られてきた。いまその能力を手にしているのは高校生のまこと。宮司である父・達夫は婿であり、跡継ぎであった母親は亡くなってしまっているため、まことがその能力を引き継いだ、という話。母親の由子は早くに亡くなってしまったため、まことに能力が受け継がれるのも早くなってしまい、まことは神使の銀太郎と友だちのような関係を築いてきた。街では日々いろいろな出来事があるが、それはとりとめのないものばかり。それでも、そこには一生懸命生きている人の姿がある。
どうにか願いを叶えてやろうと奮闘するのは立派だが、まことは銀太郎にずいぶんとデカい態度で頼む。神様って雰囲気を銀太郎が持ってないってのもあるが、子どものころからの付き合いだし、恐れおののくってことがない関係性だ。「できないことを、神様にお願いして何が悪い!叶えてあげようとすることが悪い事なの?!」と言うまこと。…いや、悪い事かもしれないし、いいことかもしれないし…とても微妙だよ。叶えてあげたいと思ってがんばるでなく、全部銀太郎に頼むのが気に食わないんだよな。だって、確実に何かをなかったことにしたりはできないし、救おうとして救えるものなんて、自分の目の前で起こるもの以外は救えないのだから。1つ手を出してすべてがハッピーになるわけじゃない。干渉することがすべてじゃない。銀太郎は多くをしゃべらないし、考えていることはこちらが想像するしかないが、銀太郎の言ってることは正しい気がする。まことの正義感はわかるが、じゃあ自分でやれってそりゃー銀太郎も言いたくなるよ。最後には結局助けてしまう銀太郎も銀太郎で、優しい神様だね~まことは本当に幸せ者だよ。
人間って神様からどう見えてる?
この漫画のいいところって、人間が創った場所が神聖なものになって、守り神が住むようになるっていう流れ。大切にしている思いとか、尊いと思う気持ちが神様になるってロマンある。そして、死んだ動物の魂が迷い込んできてそこで神使として第2の生き方が始まる。神を創るのは人間で、崇拝するのも人間で…全部人に始まり人に終わることだって思うと、やっぱり自分でがんばらないといけないって思うね。誰かが叶えてくれるってことはない気がするんだ。
大工さんは、人が神様を閉じ込めてるようで…って言ってたけど、ちょっと違うよね。銀太郎やハル、そして鉄郎だったり那智なんかも、すげー人間が好きになってるが、それは人による洗脳ってことでもない。死に方が悲しかった動物たちが、人を通してもう一度動物たち自身が向き合う機会を与えられているような。そんないい制度だと思う。死してなお世界を見つめていくのはつまらないかもしれないけど、長くたって終わりがないわけじゃない。いい仕事だよな。人としてはうらやましいけどね。ただ長く生きて、行く末を見守れたら、ただ嬉しいと思うんだよ。
人からすれば、崇拝するものって絶対必要で、人間って心が弱いよなーって神様は思うだろう。生きる目的、支える何か、なんでもいいけど、神聖な場所が必ずあって、そこでリセットされるというか。国によって宗教が違えど、大事な概念だよね。できればまことみたいに、神使と話ができる人がいるんだとしても、未来に起こることは見えないんだろうね。ただそばにいて、見守ってくれるだけなんだと思う。
展開は徐々にしんみりと
まことがアホっぽくて、銀太郎に無茶ぶりしまくっていた序盤。銀太郎が動くきっかけをくれるのはいつもまことであったことも確かで、間違ってるかもしれないけど、信じた道を走りたいっていうのは、それによって幸せになる人がいるなら、きっと間違ってないなーって思うね。
だんだん明らかになってくるけど、そりゃ銀太郎だって最初は、手あたり次第とにかく悩める人を救いたいと考えていて。それが、全部はできないんだって知って、少しずつ諦めて、傍観者決め込んで。人生諦めた人間みたいになってた。それを、まことがぶち壊してくれるんです。お互いに、足りない部分を補い合ってるいい関係だよね。そしてなにより、そんな2人の味方でいてくれるお父さん(達夫)さんが素敵。要所で助け舟を出してくれて、少し心がとがっても丸く溶かしてくれる。
一番グッと心揺れたのは、由子さんが銀太郎に初めて出会った瞬間の絵。お父さんが死んだってこと、その時わかった。お父さんがいつも言っていた、大切な守り神の銀太郎。出会いを喜ぶ前に、お父さんが死んでしまったことを悲しまなければならない。そしていつも、銀太郎は短い人の人生の終わりのたびに、その気持ちを味わってきた。そんなの…だいぶ苦しい。それこそ死神みたいにうつってもおかしくない。だから、まことは本当に特別だと思う。小さなころに出会ったからこそ、銀太郎にとっても辛さが少なく、楽しいことばかりだったんじゃないだろうか。
恋のお話も
心あったまる話でずーっと続いてきて、悟とのフラグが一気に上がったのが9巻。悟るって反抗期マックスな感じで、どうしようもないガキだった。それがまことやその友だち、銀太郎のおかげで、優しくなっていくんだね。寂しいってそればっかりだった彼が、心の成長を遂げて恋も覚えて。突然なんかじゃない。確かにそこにあって、悟にとってなくてはならない人になったんだ。かわゆす。少女漫画展開スタートだ。
銀太郎にとっては、もしかしたらまことに対しての感情は恋だったのかもしれないけど、どちらかというと、父親愛に近いというか。肝心な時に何もできないし助けてやれないもどかしさも感じてる銀太郎が愛しいね。我が子を送り出すような気持ちなんじゃないだろうか。
何も言わないけれど、誰より、まことの幸せを願っていてくれると思うよ。人間の世界で起こることは人間のもの。そう言ってないと、心優しい銀太郎にとってはすべてが毒になるかもしれない。たまーに恋なんじゃないかって錯覚するくらい、2人の信頼関係は強くあたたか。家族として、まことと悟を応援してほしいと思う。
神使たちはこれからどうする
特別な力を持っているわけじゃないけど、なんかやってほしいね。一致団結、デカい占いでもやる?ほのぼの系の漫画だし、悪の組織がいるわけでもないし、一大イベントなんて、あとは災害が起こるとかそんな感じだろうか?できれば、悲しいことより、何気ないことのままで、行ってもらえると嬉しいんだけどね。ほのぼのした毎日の中で、いかにたくさんの人が生きていて、そして彼らは何を思っているか。時が経っていく中で、全然役に立っていないようなことも実はとても大切だと気づかせてくれる。最後までその穏やかさは忘れないでいてもらいたい。
まことが悩むとき、まことの大切な人が悩むとき、そっけないふりして助けてくれる銀太郎。その関係は永遠じゃないし、まことのほうが先に死んじゃうってわかってる。そのせつなさ、儚さを感じながら、それでも一生懸命生きてることを大事にしたいねって思えるのがこの漫画だ。まだまだ続いているお話で、やっと達夫さんや由子さんの過去編のところまできた。紡ぐ過去はまだまだたくさんあるし、まことと悟のこれからだって大切にしたい。銀太郎が見つめるその先も含めて、明るいものであることを祈りたい。
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