神様へのお願いの裏側が見えてくる - ぎんぎつねの感想

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ぎんぎつね

4.004.00
画力
3.75
ストーリー
4.25
キャラクター
4.25
設定
4.00
演出
4.50
感想数
2
読んだ人
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神様へのお願いの裏側が見えてくる

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

言葉少なめで伝える

冴木神社を代々まもってきた冴木家。代々、後継者にはその神社を守る神使を見ることができ、会話をすることができるのだと言います。宮司を務める達夫さん…は婿であるため、その力を引き継いだのは娘のまこと。まだ高校生ですが、早くに亡くなった母・由子の力を引き継ぎ、小さなころから狐の銀太郎と接してきました。そんな神社を中心に起こる、日々のとりとめのない出来事を、優しく描いている作品です。

まず読んで思ったのは、ずいぶんとまことがわがままだなーということでした。神様にお願いしたっていいじゃん、占ってくれたっていいじゃん!って銀太郎頼みで行動するんですもん。ちょっとこいつ自己中だなって。喜ばれて嬉しいのは、まことだけな気がしてなりませんでした。銀太郎からすれば、全部を救えるわけじゃないんです。だから、それならやらないほうがマシだろうっていうのもわかります。悪く言えば見ないふりをするということですが、良く言えば変に干渉することでこじれさせないこともまた優しさだろうという考えなんでしょうね。まことからすれば、目の前で起こる困ったことに対して、やるだけやってみようと思うのがそんなに悪い事なの?という気持ちです。ただ、もしかしたら知らなければつらくなかったのに…と思ったかもしれない。よりひどい結果を招いただけなのかもしれない…自分以外の何かを変えようとするとき、それが良かったのか悪かったのかは結果が出てみないとわからない。そういうことを、明確には銀太郎は語りません。思っていることがちゃんと書かれてなくて、表情で伝えてくるというか。どうとらえるかは自由っていうシーンが、巻を追うごとに多くなっていってる気がします。

神使の見る人間の世界

人間に創られた場所が神聖になり、そこに守り神が住む。死んだ動物の魂が、境内に入ったとたんに神使になる。これってなんか…結局は神が人がつくるものなのかなーという気がしてきます。人が人のために、守り神をそこに閉じ込めているような…あ、昔の大工さんが言ってましたね、物語の中でも。死してなお、その世を見続けることは、神使にとってどんな気持ちなんでしょうか。登場している銀太郎、ハル、鉄郎、那智などは、人間が好きですもんね。人に必要とされる立場になるって、人間的感覚で言ったらかなりうれしいこと。何百年と与えられた場所から人の世界を見守り続ける。それだけが彼らの仕事。導くことも陥れることもしない。悩みに寄り添い、そこにいる。誰かがいてくれるってだけで、なんか心強くなる。それだけでも心の弱い人間にとっては必要なんですよね。

この物語の中で重要なのは、神使が見える人間と見えない人間がいるということ。守り神の気持ちを知っていたら、もしかしたらこんなことはお願いできないかもしれないなーとか、どんな気持ちで命の短い人間を見ているのかなーとか、いろいろ考えてしまいますね。銀太郎は、由子さんとの出会いのあと、まことを生まれた時からずっと見守ってきました。由子さんや、初めて銀太郎が神使になったときの女性と姿が重なって、まことに世話を焼いてしまっているところも垣間見れます。何百年と生きていこうとも、関わった人のことはきっと忘れない。そして彼らの数だけ時代があったことを忘れない。変わりゆく世界を眺めながら、寂しいような、つらいような、いつか終わりの来るまこととどんな関係性を築いていくのか。気になります。

少しずつじんとする

最初はまことがわがままばっかり言ってる気がしてたけど、銀太郎を動かす言葉をくれるのは、やっぱりまことなんですよね。いつだって全力で、何かできないかって必死な気持ち、どんな人にだって響くものであってほしいです。長いこと見守り続ける仕事だけをしてきて、人間を助けられるようで助けられない立ち位置でちょっとずつ諦めて。そんな銀太郎が、がんばっているまことを手伝う。感謝も非難もストレートに返してくれるまことの存在を、銀太郎は誰より大切にしていると思います。まことはまだ子どもで、いろんなことが見えていない。そういうときはお父さんである達夫さんが助け舟を出してくれて、いつもつなぎとめてくれている。なんていい神社なんでしょう…こんな賑やかな神社なら、行ってみたいものですよ。

銀太郎みたいに長く生きる神使は、人の一生なんて短いもんだとわかっているけど、別れはいつもつらそうです。由子さんが初めて銀太郎に会うことができた時の、あの由子さんの表情…そして銀太郎の表情とたたずまい…あの静けさに、お父さんが死んだってこと、嫌でも痛感させられて、何とも言えない気持ちになりますね。初めて会えた守り神。それは父親の死と同時にやってきて、まるで枷が移っただけのような気もしてくる。新しい出会いはいつでもワクワクするものなのに、悲しいよね。だから、本当に小さなころに見えるようになったまことは、ずっと一緒にいた銀太郎の存在について深く考えていないところがあります。でもそれが銀太郎にとっては気を楽にさせてくれているかもしれません。そう考えると、じーんと沁みてきます。

まことと悟

ずっとハートフルストーリーを語らってきて、9巻から激変するんですよ。なんと恋心がすとんと落ちてきたんですね。不器用だった悟が、まことを好きになるまでっていうのは、実は最初からフラグが何本もあったなーと思います。まことの言葉で動かされて、できるようになったことが悟にはたくさんある。まことと出会えていなかったらわからなかった気持ちがいっぱいあるんですね。ちょっとずつ溶けていって、オーバーフローしてようやく自覚できた。この表現もまたぐっときます。少しずつ積み重なって大きくなっていく恋心。いいな~…萌える。実は三角関係も出来上がっており、その中でどんなふうに心通わせるんだろうってちょっとワクワク。少女漫画も好きな者からすればようやく!という気持ちになることでしょう。

銀太郎とまことの関係性は、そういう色恋沙汰は超越している関係性ではあるけれど、まことを支えたくても支えきれない彼の、せつない気持ちを感じ取ってしまいます。こういうとき、銀太郎は何も語りません。

人間は人間の世界を生きている

いつもそうやって壁を作って仕切る。つっこみすぎたら傷つくのは銀太郎よりまことかもしれませんもんね。だから微妙な距離感をずっと保っている。まことって幸せ者だな~悟は自分が悲しい家庭で育ったため、まだまだ不完全ではあるけれど、少しずつ心身ともに大きくなって、まことと幸せになってほしいものです。

銀太郎の行く未来

最近は人間模様が主になっていますが、神使様たちのご活躍ももっと見たいですね。特別な力はほとんど持っていない神使たちですが、最後にはみんなで協力して挑まなければならない課題も登場しそうですね。悪の組織が…とかは今さらないと思いますけど、なんかでかいことは起こるんでしょう。

まことがどんな決断をするときでも近くにいてくれた銀太郎。彼のことが見えなかったとしても、父親の達夫さんがまっすぐな道を用意してくれたかもしれない。でもやっぱり銀太郎なしにはまことは前を向いて歩くことができなくなっていたかもしれないし、冴木神社は銀太郎あってこそです。途中から、悟の連れてきたハルも一緒になってるけどね。でも狐同士で仲良くってのもいいな。ハルがもうちょい大人になったらさいいんじゃないだろうか。

彼らののほほんとした世界でこれからどんなふうに未来を目指していくのか、気になるところです。

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お願い事をするってどんなことだろう

言葉より空気を感じてほしい後継者は、その神社を守る神使を目でみることができ、会話ができる。代々そうやって冴木神社・ひいてはその地区全体が守られてきた。いまその能力を手にしているのは高校生のまこと。宮司である父・達夫は婿であり、跡継ぎであった母親は亡くなってしまっているため、まことがその能力を引き継いだ、という話。母親の由子は早くに亡くなってしまったため、まことに能力が受け継がれるのも早くなってしまい、まことは神使の銀太郎と友だちのような関係を築いてきた。街では日々いろいろな出来事があるが、それはとりとめのないものばかり。それでも、そこには一生懸命生きている人の姿がある。どうにか願いを叶えてやろうと奮闘するのは立派だが、まことは銀太郎にずいぶんとデカい態度で頼む。神様って雰囲気を銀太郎が持ってないってのもあるが、子どものころからの付き合いだし、恐れおののくってことがない関係性だ。「できな...この感想を読む

4.04.0
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