フェストゥムという存在をより強く感じる一作
大丈夫、必ずそこへ帰る
蒼穹のファフナーTVシリーズより6年、待望の続編が劇場作として発表された。様々なものを竜宮島にもたらし、大切なものを守って、でも故郷に帰ることのかなわなかった総士の帰還に至るまでの物語である。
誰もが待ち望んだ展開が描かれている本作であるが、その中に新たに分かった重要な事項が多分に含まれている。
新たなファフナーパイロット達、それぞれのフェストゥムへの感情
竜宮島では限界は近いもののTV版でのパイロットの大半や、更に甲洋まで(肉体としての姿はないが)もが復帰し、新たな新世代パイロットが誕生している。
新たなファフナーも多数登場しているが、紅音にもたらされた知識や技術により体への負担が減っているなどの点は前作で悲劇を多々目にしてきた人間には明るい話題として見れただろう。
しかし敵も学習するという点はやはりそのままで、相手にするにも一筋縄ではいかないものばかりだった。
その中で新たにパイロットになった4名それぞれの変性意識によるフェストゥムに対する感情の違いが目を引いた。
西尾暉は変性意識で言葉を取り戻した自信からかフェストゥムを倒すことに喜びを感じる。
西尾里奈は不安や恐怖からフェストゥムを恐れる。
立上芹はフェストゥムの泣き声を聞き、彼らの墓まで作るようになる。
堂馬広登も同様に、フェストゥムの悲しみを知る。
暉・里奈のような感情はTV版パイロットでもあったものだが、芹や広登のような感情をフェストゥムに抱いたパイロットはほぼいなかったはずだ(フェストゥム化した甲洋に対するものを除き)
これは人間側もフェストゥムに歩み寄る、共生するという選択肢を自然と考えるようになったといって相違ないだろう。それまでずっと「敵」としての意識が強かったフェストゥムへの考え方は、この劇場版を通して大きく変えられることとなった。それには勿論彼らパイロットだけではなく、フェストゥム側の行動からも変化することとなる。
人型フェストゥムが目指した新たな道
本作でフェストゥム側の中心人物として描かれる来主操。フェストゥムでありながら人の形を取り、奔放な性格で周囲を振り回していく。それだけ見ていれば普通の人間と何ら変わりない。
そう、紅音や甲洋のような後天的な人型フェストゥムではなく、人と何ら変わりないような存在のフェストゥムが生まれてきたのである。これはフェストゥムにとって非常に稀有な例であり、人間側への新たなアプローチに他ならない。
彼を導いた存在は総士であるが、感情を抱く、それを露わにするといった点は彼がそれまで学んだ結果であり、その操の想いの果てにコア型に転生するという結果があった。これはフェストゥムにとって新たな道が開かれたということを示しているといって過言ではないだろう。
そういった点で劇場版ではフェストゥムが「竜宮島の平和を脅かす敵」という単純な存在ではない、彼らもこの世界の住民の一部となったと感じられることが出来た。
対話が出来る存在。共生出来る存在。無論「敵」という意識を抱いたままのフェストゥムも依然多く残ったままではあるが、これまでの視聴者が望んだ以上の未来がこの作品で描かれていたことが非常に嬉しく、またフェストゥムという存在に愛着すら沸いたのである。
蒼い空の下、生き残った者達
蒼穹のファフナーはTV版、更に前日談に至るまで非常に死亡者の多い作品であった。当然今回もパイロットの一人や二人欠けても仕方がないという覚悟で視聴に臨んだ。しかしメインのキャラクターのほぼ全員が生存、かつ総士の帰還という、ほぼハッピーエンドという形で物語を終えたと言っていい。
今でも正直この事実が信じられない自分がいる。というのもそこまでが酷過ぎて、脚本の冲方氏はそんな展開は描かないのではないかという強烈な思い込みのせいなのであるが。
それは案の定更なる続編で大きく裏切られるというか予定通りの形となっていくため、「劇場版で…終わっててもよかったんじゃ…」と呟いたものだ。
それほどに愛着のあるキャラ達が劇場版の時点ではほぼ生き残ってくれたという結果にも、フェストゥムの変化が大きく起因している。操、そして彼と共にあったフェストゥム達が平和、ないしはそれに近いものを望まなければこの結果はもたらされなかったのだ。
そういった点でもやはり今作におけるフェストゥムは注目点であり、操以外のフェストゥムにも表情があったり感情を露わにしていることは大事な要素で、続編でもそれは大いに活かされている。
映像面(特にロボットアクション)の素晴らしさや、ストーリー展開、キャラクターの成長などがこの作品の見どころであるが、私はやはりこの作品の主役はフェストゥムではないかと思っている。彼らもまた戦いを生き残ったものであり、そしてこれからも共に世界に生き続ける存在としてあるのだから。
蒼穹の下、彼ら双方が本当に平和に生きられる世界が作られることを今後も祈っている。
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