漫画の実写の数少ない成功作
吉高さんと生田さんがとにかく良い
「僕等がいた」は人気少女漫画の実写化である。行ったり来たり迷いながらやっと通じ合ったと思った矢野と高橋。これからはそれを育み大きくしていくだけ…そう思っていた矢先、矢野の転校が決まった前半の映画。前半では少女漫画らしい、女は自分を裏切るという不信感から動けずにいた矢野を、純粋すぎる高橋が癒してくれる物語であった。たいてい漫画とのギャップを感じてぞわぞわしてしまうのだが、この作品はまったく別。吉高さんの高橋七美役は、不器用だが純粋で優しいところ、自然体なところがよく合っていたように思う。また、生田斗真さんの矢野元晴もまた、影のある迷える男子をよく演じており、チャラさも女の子へのあつかいも、実に心くすぐるものだった。
後編では、高橋も矢野も社会人となり、消息不明となった矢野のことをずっと待ちながら、約束の地・東京で就職活動をしている高橋の姿を映すところからスタートする。高橋は相変わらず矢野をずっと待っていて、なぜ突然連絡が取れなくなったのかもわからず、でも矢野が連絡をよこさないということは、きっと何か事情があるのだろうとずっと待っていた。そんな高橋のことを優しく見守り続けていたのが竹内。気になるのでいっそ言ってしまいたいのだが、この二人は男女の関係にあったのだろうか…?いや、ないとは思うのだが、竹内くんは本当に不憫である。近くに好きな女がいて、矢野を想い続ける高橋を6年間ずっとそばで見てきて、もう狂ってしまいそうになることがなかったのだろうか…?そこは言ってくれなかったが、彼が最終的に亜希子という良き理解者を得られたことを、本当に心から喜びたい。亜希子もまた、相談役のきりっとした女性がぴったりとハマっており、実写化映画として珍しく、キャスティングが実によかったと言えるだろう。
一度会うことができるという演出でせつなさ倍増
途中の演出で何とも言えないのは、ラストを迎える前に矢野と高橋が一度再会できる、というところ。最後まで会えなくて、やっとの思いで再会して愛を確かめ合う…みたいなのがセオリーかなと思うのだが、一度東京で再会でき、そして改めてそこで別れる…これは相当ダメージがデカかった。これはもう別れるフラグかも…という気持ちにさせられた。
ただよく振り返ってみると、そのシーンでは、矢野は高橋に対して、離れることを直接的な表現では伝えることができていない。これが「最初で最後の東京デートだ」と言っているだけで、高橋はそれが暗に別れになるのだろうと判断しているのである。2人とも、お互いが嫌いで離れたんじゃない。それがわかっているのに、離れなければならない理由はどこにあるのか…
絶対に裏切らない
高橋にはその自信があり、これから先も揺るがないと思うからこそ、矢野の気持ちが固まることを待とうと決め、離れたのではないだろうか。矢野は、自分から高橋を自由にしようと決めた。そして別れたつもりだった。だけど…竹内くんの
高橋が溺れてんだよ…!!!
の一声で、彼は山本の母親と、山本有里自身をなぜ養わなければならないと自分に課したのか、自分が失いたくないものは本当は何なのかを考え始める。この物語は、高橋の忍耐と、竹内くんの矢野に対する愛情・高橋に対する愛情によって支えられていたのである。矢野は自分が苦しいから、自分が大切な母親に対してしてしまったことをどうにかして清算したいと思うから、山本親子とともに自分が在らねばならないと決めつけていた。山本有里と話をつけてくれたのも竹内くん。そして、高橋の心を支えてくれていたのは亜希子。矢野がいかに愛されていたかを知ること、そしてどう立ち直るかが重要だった。
山本さんの苦しみ
山本有里の苦しみは、はっきり言って逆恨みだ。姉が矢野と付き合っていて、自分も矢野が好きだったのにとられたと思っていた。そして、矢野がアホで、寂しさから一度カラダの関係を持ち、それをネタにいつまでもいつまでも…矢野を姉の呪縛から逃れられないように縛り付けたのである。そうまでしてでも、彼が欲しい。愛のデカさはすごいが、やはり自分押し売りで誰かを縛り付けることは絶対にやってはいけないと感じた。
それでも、自分のせいで母親が死んだと思っている矢野にとっては、目的をくれた山本有里の行動はすべてが悪とは言えない。彼の近くにいたいと思う有里と、それを養うことで存在意義を見出す矢野は、持ちつ持たれつであった。そのまま一緒になることはなかったが、有里も矢野以外を見ることができるようになったことは、矢野や竹内くん、高橋たちのおかげであるし、立ち直る勇気を持てたことは、本当にエラいと思う。悪役に回って、それでも矢野の精神を正常に保たせてくれた山本有里は、本当にデカかった。
もちろん、山本有里はこれから一人でがんばっていかねばならない。矢野には高橋が、竹内くんには亜希子がいるが、彼女には今のところ誰もいない。それは確かに罰としてあるべき形かもしれない。今までの依存から解き放たれて、一人でがんばろうと決断した勇気は称賛ものだ。一生懸命パン屋をがんばっていたら、明るい未来がやってくるのではないだろうか。
竹内くんの苦しみ
もう一番の苦しみは竹内くんにあったと言わざるを得ない。高橋をずっと支えてきた彼が、最後の最後、もうこれで終わりだというところでプロポーズをし、高橋はそれを断る…川へ指輪を投げた時のあの激情…矢野に怒りをぶちまけてもなお、やっぱり自分のことより高橋を幸せにしてほしいという怒り…心の底からいい奴である。もうこんな当て馬は他の作品でもいない。だいたいは悪い事しちゃったり、離れていったりするのに、最初から最後まで、優しい結果をもたらすことしかしていない。なんなんだろうこの人。ここまで人の気持ちに寄り添って支えようとできる人物って…いたら神様レベル。
もちろん、誰より苦しんだと思う。矢野より、高橋より、苦しんだと思う。だから、亜希子がいてくれて本当に良かった。もうお似合いすぎる。もう嬉しすぎる。亜希子も竹内くんと同じようなポジションで、そして女性の目線で2人のことを支えてきた。同じ境遇で分かり合えることってやっぱりたくさんある。どんな家族よりも優しい、素敵な家庭になることだろう。赤ちゃんができるのが早いのもなんか嬉しかった。
ハッピーエンドありがとう
最終的なラストは、漫画とは違う、廃校になると決まった高校の屋上。高校で出会ったときのことを振り返りながら…というのはまた再会できるって感じもするし、もう会えないって感じもして、いったいどうなる…?という気持ちだった。ただ、原作は知っていたし、どうにかこうにか再会できるはずとは信じていたし、出会いの場所である屋上をラストに置いたのも良かったのではないだろうか。
ただ、個人的にはちょっと…と思う名セリフがある。
お前、俺の方位磁石だ
…わかりづらくないだろうか…?コンパスって言ってもおかしいし、目印とか星とかなんかこう…確かに、吸い寄せられるようにまた戻ってこれた、という意味も含めると、磁石のほうがいいのかもしれない。ただ、
好きだバカ
に並ぶ名セリフにはならないと思う。漫画での「俺と家族になってください」というセリフには及ばない。構成的にはよかったなーと思うので、これだけ流行ったのも頷ける作品である。
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