暗い話なのでどうなることやら…
主人公の悲劇のヒロイン感がいつまでたっても付きまとう
実はそのダメさに気づいているのが早穂さん。姉御。人の心が読めるなんていう特殊能力を生まれつき持っていた珠里が、むしろそれを生かしてこれからがんばっていこう!というところを描いているこの物語。探偵事務所ということで、扱う案件が地味なものかと思いきや、警察とつながりを持っている早穂さんの探偵事務所のもとにはブラックな案件が舞い込んでくる。それを順当にクリアしていく…わけだが、所属しているメンツの中で、珠里はずーーーーっと悩んで困っている。自分にトラウマをつくった元カレ・吏己と、自分にベタ惚れの陽太、そして親代わりの早穂さんとサポートのスタッフさん…濃ゆいメンバーの中で、仕事として向き合わなければならないのに、いつまでたっても吏己のことを認められずにいる珠里。せっかくアメリカにまで行って研修してきたっていうのに…
珠里の「人の心を読む能力」と、「近未来予知」の能力は、いつでもできるわけではなかった。しかし、経験を積むにつれ、珠里の能力はどんどん開花を見せていく。人の心の内側をみる・みないは自分で調整できる状態ではあったが、よりクリアにはっきりと見えるようになり、そしてそれをもとに行動する珠里自身の行動がどんどん大胆になっていく。少しずつ成長していくようだが、一方でこれは病状が深刻になっているようなブラックさも見せている。人が怖くて動けなくなっていた珠里が活動的になるのはいいが、吏己と陽太の間に揺さぶられてより心の安定は失われている気がする。そんな状態で事件を解決していっていいものなのか…?まだまだ謎は深まるばかりである。
恋愛側面の弱さ
珠里の能力は、人との心が離れるほど強くなっている気がしてならない。吏己と、陽太と、早穂さんと。正直になれないとか怖いとか、プライドが邪魔して動けなくなるほど、人の気持ちがわかるようになりたいという気持ちが強まるもの。それが如実に出ているのではないだろうか。物語が進むにつれ、テロリストの大きさはどんどん大きくなるばかり。果たしてそんな大事な役割をこんな少人数に任せていいものかどうかが疑問だが、それほど「心が読める」ということは何よりすごい能力ということだ。
珠里が最終的にどの人を選ぶのか、という点も物語の中で重要なのではないだろうかと思うが、何をしたいんだろう…と思ってしまうことも多々ある。作者の小花さんの漫画はとにかく表情がわかりづらいし、暗いし…シリアスなシーンが多いのもあって、ラブな雰囲気はすごく少ないと思う。イケメンがイケメンらしくないし、カクカクしてるからもあるだろうか…
まぁ大事なテーマは、珠里が人としてどう成長するかということ。こんな自分かわいそうだけどがんばってるみたいな珠里が、ここからどうデカくなるか。早穂さんが言っても、おばあちゃんが言っても、気づけないかもしれない。(おばあちゃんはむしろ力を強めやがるから危険だ…)陽太がどうにかなることによってそれが得られる、なんてことはやめてもらいたいし、自分にとって何が大切か、何に助けられて今があるか、そういうのを忘れずに選んでもらいたいと思う。10巻を越えてきて、どんどん気持ちは吏己へと向いている珠里。彼の事を知ろうとしなかった過去を反省し、自分から歩み寄ろうとしている。それによりどんどん大胆になり、どんどん危険になっているわけだが、果たしてどこまでいくか。陽太がずっと待っていてくれるわけでもないのだし、どこで気づいてくれるか。待ちたいところだ。珠里が追いかけるだけでなく、吏己も変わらなければ事は進まないのだし…追いかける・追いかけられるでなく、どこかで歩み寄ってもらいたいものだ。いいかげん、ラブを多く出してほしい…。
敵はバカばかり
考えていることがばれているわけだから、そりゃー犯罪者たちは弱いだろう。しかし…それにしたって弱いでしょう、と言いたい。考えが読めたって、行動が読めるわけではないだろうに。そして面と向かって対峙したら、そりゃーテロリストのほうが強いんじゃないの?味方以外の新参を、重要な局面で信じるってことが…ある…?確かに話しは大きくなってきて、強そうなのだが、顔といい身体能力といい、雑魚である。早穂さんの情報源を絶つことや、圧力をかけること、すげー奴がいるという情報をあらかじめつかんでおく…などなど、敵の準備の足りなさが目立つ。
作戦のこまかさ、それに対する攻略はかなり複雑。そして切迫した雰囲気はいい感じがするし、それによって珠里、陽太、吏己も変わっていってるので、要はそこがメインだ。よくこれほど事件についてこまかく決めれるなーと感心。そしてそれを確実に心の変化に生かすために、相当時間を使っているのではないだろうか。
古い漫画で「無重力少年」というやつがあった気がするが、そこでは心の安定が図られることによって、自分の重力を操り能力が消失していた。もしかしたら、珠里の力もそうなるかもしれない。不安になるほど強くなり、安心するほど消えていく。陽太と付き合うことによって増したのは、吏己との関係性が改善されていなかったということと、それに対する自分の負い目が深くなっていたからではないだろうか。
自由に閉じたり開いたりできるからといって、あまりこの世にあっていいモノという能力でもないし、最終的には消えたほうが安心するかもしれない。
つらいことこそ乗り越えたいというイイ子ちゃん
陽太と付き合うことによって、安定したかに見えた珠里。でもそれは、吏己との距離がより遠のき、罪悪感や自分の気持ちに正直になりたいという衝動に気づくことへと発展する。人間って、安定したいと思っているくせに、安定したと思ったらつまらなくなってしまうらしい。手に入れるまで大変なものこそ、攻略しようとするのである。
吏己が、実は珠里を傷つけようと思ってトラウマを負わせたわけではなかった。その時に、珠里がより子どもでわかってあげることができなかったし、吏己も自分自身に対しても、珠里に対しても興味を持てていなかったことも影響していた。それに気づけば、今度はわかってあげようとしてしまうのが女ってやつかもしれない。捨てられたことは事実、と割り切れない珠里はウザいと思うが、分からなくもない自分もいる。心が読めても読めなくても、相手に何かを伝えるには、やっぱり言葉と行動で示すしかない。そうやってお互いの間にできてしまった溝を埋めていきたい…陽太には辛い展開である。珠里しか見えていない、という点では、自分の気持ちがちゃんとはわかっていない吏己よりも一歩先を行っていると思うのだが…肝心の珠里の気持ちが向かなければどうしようもないのである。お似合いだけど…こればっかりはタイミングの問題。なるべくハッピーにしてもらいたいが、すでに暗雲が立ち込めているので心配だ…。
変わっていくことがむしろ怖い
珠里の能力はおばあちゃんの秘薬もあってどんどんヒートアップ。体への負担も大きくなり、珠里自体の行動力も大胆に。おばあちゃん、やめてくれよ…。そのうえ、気持ちが離れてしまった陽太が、ブラックになりそうな気がしてならない状況。珠里は犯罪者を手にかける、という行動にまで出始める。
果たしてそれが正しいのか?歩み寄ることができない人間もいるのは事実。そこで命を失わせてしまったことが果たして珠里にどんな影響を及ぼすのか。もう心が壊れるところまで行きそうである。きっと早穂さんや、陽太、吏己、友だち、いろいろなひとが助け舟を出すだろうが、飽きてきた。閉ざされた気持ちを、正直にぶちまけられるようになってほしいなと切に願う。
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