不思議にリアルを感じる、大人のおとぎ話
いかにも小説、な設定なんだけど抗えない
ある日突然、見ず知らずの女性が嫁にやってくる。一昔前ならいざ知らず、現代ならあり得ないような設定で話が始まる。あらすじを全く知らずに読み始めたから、最初はのどかな南の島の日常が綴られて行くだけの物語かと思っていて、突然の急展開に驚いてしまった。そして、うまい設定を考えたなぁと感心した。ものすごく続きが気になる。絵馬に書いたメッセージを読んだ超美人が訪ねてくるなんて、いかにも作り物のお話という感じで、読まされてしまうのは釈なんだけれども、それでも読んでしまう。小説は虚構であるということを全然隠さずに、物語を物語として楽しませてくれるのが原田マハの魅力だ。
生き生きと動く登場人物が魅力
そんな無茶苦茶な設定から始まるのに、その後の物語は意外なほどあっさりしている。とんでもないことが起こったはずなのに、淡々と日常が続いていく。ヒキの強いドラマ仕立てかと思ったら、妙にリアルな描写だからつい引き込まれてしまうのだ。これは人物表現がリアルだからだろう。他の作品でもそうだけれど、描かれる人物はどれもすごく生き生きしている。実写化しても違和感がないだろうなと思わせるような、声が聞こえてきそうなセリフ回しだ。それぞれの人物に少しずつクセがあって、ダメな部分も含め共感できることが多い。この作品だと、おばあは特に強烈だけれど弱いところが垣間見えて憎めないし、明青は頼りなくてはっきりしないんだけれども、素直で優しくて応援したくなる。
家族って、なんだろうという問題
この作品は単純なラブストーリーに終わらず、家族のかたちの在り方を考えさせてくれる。恋愛というより家族愛の物語だろう。明青と幸の関係性については、最後の手紙で明かされるわけだが、種明かしという感じであまり巧みな演出とは思えない。こじつけっぽくも思えるし、別に決着をつけてくれなくても良かったのにと思ってしまう。それよりも、中盤で描かれる幸とおばあの交流とか、俊一と明青の間に挟まれて悩む渡の友情とか、そのあたりの微妙な心の動きの方が魅力的だ。自分勝手ながらも揺れる心情が細やかに描き出されている。その中でも、突然自分のそばで生活し始めた幸のことを、いつのまにかなくてはならない存在として受け入れている明青の気持ちは、あり得ないようでものすごくリアルだ。人間の気持ちは、本来これくらいいい加減なものなのだと思い知らされる。おそらく、幸が美しくなかったら、あるいは明青がすごくお金持ちだったりしたら、こういう感情は生まれていなかっただろう。それでもいくつかの条件の中で、たまたま巡り合った人と家族になる。それが実は自然なことなんだと気づかせてくれた。
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