『NO.6』の世界観やネズミと紫苑の関係性をあさのあつこ他作品をふまえて考察 - No.6(ナンバーシックス)の感想

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No.6(ナンバーシックス)

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文章力
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ストーリー
3.50
キャラクター
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演出
3.33
感想数
3
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『NO.6』の世界観やネズミと紫苑の関係性をあさのあつこ他作品をふまえて考察

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
3.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

『NO.6』の起承転結を考察

『NO.6』を最後まで読み切ったとき、特にこれといった意外さはありませんでした。落ちるべきところに落ちた感じでしたし、何となくですが予想できる最後でもあったような。

でも世界観とキャラクターの魅力、すなわち秀逸な情景描写&心理描写。これは素晴らしかったです。むしろこれだけで最後まで読者を世界観に引きずり込んだ印象でした。さすがとしか言いようがないですね。

『バッテリー』しかり『福音の少年』しかり、あさのあつこさんの作品は起承転結を読み切ったあとにどこかもやっとしたものが残ることが多いです。結局どうなったんだろう……と。

たとえるならば、マラソンで並んで走っていた友達がゴール手前で光速でぶっちぎったような気がしたのにゴールについても姿が見当たらない、という感じ。

結末はどこに行ってしまったんだろうと取り残された感じです。分かりにくいですかね。

その点『NO.6』は、もやっとしたものが少ない印象でした。かといってラストが明瞭ですっきりしているわけでもないのですが、全体的に分かりやすくまとまっていたかなと。

『NO.6』は設定・キャラクター・世界観が強く、一見するとラノベによくあるアクションものっぽいんですが、読んでみるとやっぱりあさのあつこさんの小説なんですよね。

いろんなところに含みのある感じだったので、自分なりに考察してみました。

紫苑とネズミの関係性を考察

まずあさのあつこさんのキャラクターは大きく分けて2つに分類されると思うんですけど、ネズミは「白兎シリーズ」の白兎や『バッテリー』の原田巧に近いなと思いました。そして紫苑は「白兎シリーズ」各巻の主人公たちや『バッテリー』の永倉豪。

ものすごい力で引っ張っていく方(ネズミ)と、引っ張られる方(紫苑)ですね。引っ張っていく方の特徴としては線が細く美声であったり、物語の中でも稀有な存在であることが多く、逆に引っ張られる方はどちらかといえば凡庸です。

『NO.6』のネズミと紫苑は、あさのあつこさんの小説の中でもこの2つのキャラクター性が顕著に表れていると思います。同性愛まではいかない友情、ではなく、同性愛を越えた何かを目指している感じがしました。

この関係性において個人的にピックアップしたいのは出会いのシーンです。紫苑が嵐の夜に窓を開けてネズミと出会う場面は運命的でしたがただの偶然ではなく、必然性が高かったですよね。ここがポイントなのかなと。

先ほどネズミと似ていると挙げた『バッテリー』原田巧と永倉豪の出会いを例に比較してみましょう。

原田巧は親の転勤で偶然引っ越してきて、永倉豪と出会いました。本当に偶然です。

これに対して紫苑はどちらかといえば、(無意識的にではありますが)ネズミを呼び込んでいます。心の中ではネズミのような人物を求めていたんだろうなというのは読み進めるほどハッキリしてきますよね。

全巻読み終えたあとに1巻を読み返してみて、必然性の高い出会いの描写が2人の関係性の説得力をいっそう増しているのかなと思いました。

そして人物関係が長編にもかかわらずかなり閉鎖的ですよね。言うなれば、紫苑とネズミとその他大勢です。それくらい主人公2人の関係性に重点を置いています。

つまり何が言いたいのかというと、運命的に出会った2人は実は出会う前からお互いを求めていて、お互いを恐れたり尊敬したりしながらも、そういうのとは違う次元で強くお互いを求め結びついているんだろうなぁ、と。

2人の関係性を全面に押し出した分、他の作品より人間関係の現実味は薄く、理想を追うような感じに仕上がっていました。男性同士の関係性を理想的に見るのは大半が女性だと思うので、男性には受け入れられ難い部分も大きそうですね。

NO.6の世界観と現代日本の共通点を考察

NO.6の壁の内側と外側についての考察です。私は最初、地球という大きな範囲でとらえて先進国と後進国の現実を描いているのかなと安直に考えていたのですが、よくよく考えたら壁の内側と外側すべて現代日本にあるなということに気がつきました。

それも福祉が充実した現代日本ですから表面的ではなく、内面的なものです。

もっと言えば、ひとりの心の中にある理想と現実のようなものじゃないかなと思います。

食べものに困ることの少ない現代日本人は、良くも悪くもアイデンティティを求めていますよね。たとえば何か夢を叶えたいだとか、自分を認めてほしいだとか、ただ食べて生き延びるよりも抽象的で手段が複雑なものを追いかけています。

そんな中、学歴や画一的なもので他人が自分の評価を決めつけたり、自分じゃ夢を叶えられないと諦めてしまったり、悩むこともあります。

それは貧困に飢えている人からしたら贅沢な悩みかもしれないけれど、本人にとっては死ぬほど苦しいことで、心の中でいろんなものを犠牲にしていたりしますよね。西ブロックではわかりやすく人が餓死していますが、それに近いことが心の中ではいつも起こっているのかなと思います。

じゃあその追いかけている理想は本物の理想かといえば、人によってはそうではないこともあります。他人から押し付けられるまま、知らないうちに理想だと勘違いしていたり。

こういった現代日本人が抱えている悩みや自分の心の中で自分を殺してしまう部分なんかも、クロノスと西ブロックの対比には含まれているのかなと思いました。

もちろんこの対比は地球規模でも国内でも友達関係でもなんにでも当てはまると思うのですが、自分の中だけに当てはめて見つめ返してみることで、小説『NO.6』のメッセージがより見えてくるのではないかと思います。

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児童文学として扱うべき本

紫苑とネズミ、その愛をボーイズラブと扱わないでほしい『NO.6』の主人公、紫苑は男性である。彼の12歳の誕生日に部屋に飛び込んできたネズミもまた、男性だ。この時点ではネズミが華奢で長髪だったこともあり、暗い中で紫苑はネズミを男性だとは認識できなかった。しかし、物語が進めばネズミは男性であるということは明記されている。紫苑はネズミに対し異常な好意を持っていたと読み取れる。「君に惹かれている」と本人の口からも証言されており、キスシーンも含まれている。彼らの関係は恋愛だったのか。この作品をボーイズラブとして読む人は確かにいる。アニメ化もされたが、特にアニメではボーイズラブの色が強く、原作もそう扱われることが多い。しかし、私は2人の間に恋愛感情があったとは思っていない。紫苑はネズミのことを酷く知りたがった。相手を「知りたい」と思うことは一種恋をしていることに似ているかもしれないが、紫苑が求めているのは...この感想を読む

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