三浦春馬主演ドラマ『僕のいた時間』を見終わって
三浦春馬さんが話を持ち掛けて完成したドラマ
『僕のいた時間』は三浦さんがドラマ『ラスト・シンデレラ』を撮影中に、命を題材にしたものをやりたいと提案して製作されたドラマだそうです。難病のALSを発症した澤田拓人(三浦春馬さん)が病気を受け入れながらも苦しみ、戦いながら恋人・本郷恵(多部未華子さん)の助けを借りながら前に進んで行く物語です。そしてドラマを見るものが生きるという事はどういう事なのかを考えさせられる物語です。
病気と闘う役柄は天下一品の三浦春馬さん
ALSは筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)という難病で日本には約8,300人の患者がいるそうです。徐々に筋肉が動かなくなる病気なので最終的には呼吸するのも困難になって死に至るとか・・・。想像するだけで恐ろしい病気ですが三浦さんがドキュメンタリー番組を見てALS患者の役を希望したと話されています。
三浦さんは命をテーマにした作品にチャレンジしたかったそうで、自分が手を挙げて完成した作品だけにALS患者の演技は迫力が有り、ドラマが進むにつれ筋力が衰えていく拓人の姿に目を背けたくなる時も有るほど素晴らしい演技でした。三浦さんの公式サイトには趣味がサーフィンとサッカーと有り、このドラマの中でサッカーをするシーンが多く出てきました。若いころに色々なことをしていると何処かで役に立つのだなぁと納得していました。次はサーフィンの腕を発揮できるような作品に出てほしいですね。
拓人を支えた恋人・恵
拓人と恵は就職活動中に知り合い、恋に落ちるごく普通の若者でした。しかしALSという突然の不幸が二人に襲い掛かります。毎日の当たり前が病気や事故などで簡単に崩れていく怖さを感じたドラマでも有ります。社会人になった拓人が体の異変を感じ、ALSだと知った時、身内に病気を知らせたくないと思います。自分の未来に希望が無く死という現実しか見えない時、私ならどうするか?身内に話しても現実は変わりません。繰り返し考えても答えを出せないほど大きな課題です。
拓人は恋人・恵に病気を告げずに分かれます。恵は自分の病気を知っても離れていかないだろう。それだからこそ別れなければならない。他の健康な男性と結ばれて幸せになってほしいから。そんな拓人の悲しい決心に心が痛みます。そして理由の分らぬまま拓人に別れを告げられ、傷つく恵も可哀そうでなりません。
拓人の周囲の人たち
拓人が就職した家具会社の人たちは、拓人の病状の進行に合わせた仕事ができるように協力します。現実にはこんな職場が有るのか?と疑問に感じましたが拓人が正社員であること、健康な時に一所懸命仕事をしていたが姿が仕事仲間の心を動かしたのでしょうか?
拓人と別れ、拓人の先輩でもある向井敏行(斎藤工さん)と結婚を決心した恵ですが、拓人の病気を知り拓人と一緒にいることを決意します。ここで私も自分ならどちらの道を選ぶだろうと自問しました。人生に分かれ道が有るとすれば大変大きな分かれ道になるはずですから。このドラマは常に自分ならどうするのかを問いかけられていると感じます。後悔したくない、幸せになりたい、目の前の人を自分はどの位大切に思っているのか?自分はどうしたいのか?と。
拓人の周囲の人たちは基本善人ばかりですが、それでも言葉や心の行き違いなどで摩擦が起きます。人間は本当に複雑で面倒な動物だと思います。ドラマでも愛し合いながら相手のことを思って別れた拓人と恵が互いの本当の気持ちを知り、心の奥に隠し持っていた本当の想いが解けて行く海辺の場面は、このドラマを見続けて来て良かったと思えた場面の一つです。
風間俊介さんと山本美月さんが好演
大変重いテーマのドラマの中でほっこりさせてくれたのが拓人の親友・水島守(風間俊介さん)と村山陽菜(山本美月さん)の二人です。少しさえない守が陽菜に恋をし、最初は守を相手にしていなかった陽菜が徐々に好意を持ち始め、その守を尾行したことで拓人と恵は再会できます。守の親友思いで暖かい人柄がドラマをほっこりさせ、必死で陽菜に恋する姿が微笑ましくドラマの流れの中で貴重な存在になっていました。
また、成績は抜群だけど人とのコミュニケーションが上手く取れない拓人の弟・陸人(野村周平さん)は医学部を辞めます。拓人と陸人は相手の気持ちを大切にするあまり自分の本当の気持ちに蓋をしてきたのだと思います。母の希望通り医学部に入り、父のように医者になろうとしていた陸人でしたが大好きな恐竜の道を選びます。人とのコミュニケーションを取るためにバイト先で自分の取扱説明書を配るユニークな作戦(拓人が会社で自分の病気を知ってもらうためにプリントを仕事仲間に配ったのを真似しました)に驚きましたが、取り扱い説明書を受け取った人は陸人に興味を持ち、好きになったに違いないと思います。そして陸人と同じように恐竜に興味を持つ友人にも巡り会えたみたいで世の中は広いと私も嬉しくなりました。
ただ残念な事は、向井敏行役の斎藤工さんの設定が不完全燃焼でした。恋のライバルが健康な男ならストレートに宣戦布告をしてライバルを撃沈する事も出来ますが、相手は病気で後輩です。随分悩むことにもなりますが、そこら辺の葛藤をもっと悲しく深く掘り下げて表現して欲しかったと思います。
生きていくことを選んだ拓人
ALS患者は呼吸筋の麻痺が始まると自発呼吸ができなくなります。人工呼吸器を付けなければ生きていけなくなりますが、付けずに死を選ぶ人もいるそうです。拓人も生きるのが怖いと泣きます。でも恵が自分を必要としてくれるならと人工呼吸器を装着し、命ある限り生きて行くことを決めます。もし、私が同じ運命を背負ったなら、拓人のように強く生きて行けるだろうか?恵のように支えてくれる人は居るだろうかと考えてしまいます。
一つの病気を扱ってドラマを製作するにあたって患者、家族、医者などの皆さんから批判などが予測されますが『僕のいた時間』には殆んど批判の声が無かったそうです。それだけ正確な取材をもとに製作されたドラマだという事でしょうか。医療監修はALSに関する研究の第一人者で、東京都立神経病院の院長・林英明さんがされています。協力は「日本ALS協会」「医療協力 東京都立神経病院」と有りますので、かなり勉強されてから放映されたのだと思います。
ALSを発症された有名人は2013年に亡くなった元プロ野球選手の土橋正幸さんで、発症後1年で亡くなったそうです。同じくアメリカの野球選手でルー・ゲーリックさんが発症、母親もALSだったそうです。そして時々テレビで拝見しますが車椅子の理学者として有名なホーキング博士が有名です。博士は発症50年以上経ても健在ですので、今でも拓人は恵と一緒に講演を続けているかもしれません。
健康な体を持ち、その気になれば何だって出来るのに何の目標も持たず毎日を過ごしている自分に気づきます。そして拓人のような不幸は訪れないと勝手に思い込んでいる自分が居ます。すべての人間が自分の人生の終わりを知ることが出来たら世の中は大きく変わるように思います。人生を逆算して計画を立てながら過ごし、毎日をもっと大切に生きるのでは無いでしょうか?
『僕のいた時間』は毎回見る前に心重くなるドラマでしたが見ずにはいられないドラマでも有りました。脚本が橋部敦子さんで草彅剛さん主演『僕の生きる道』『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』、二宮和也さん主演『フリーター、家を買う。』などのヒューマンドラマを多数を手掛けている方です。楽しいドラマも大好きですが、人間にとって一番大切な生きる事をテーマにした作品の制作をこれからも期待したいです。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)