生きていくこととは。命の大切さを切実に訴える
生きていくその時間が、「命」となる
「僕のいた時間」。まさに生きていくこととはこのことなのだなと感じた。楽しいこともあるけど、つらいこともあるし挫折も経験する。だけどその中で人は親、兄弟に始まり、たくさんの人と出会い、その時間をつむいでいく。生きていることにたとえ絶望しても、人とのつながりは絶対で、そこに自分が存在した意義を感じることができる。普段の生活で、このようなことはなかなか考えられるものではないだろう。毎日を何気なく生きていて、ただ目の前にあるものを必死になって取り組んでいる。そうしてそれぞれがそれぞれに貴重な時間を過ごしている。もし、そこで病気になったらどうだろうか。生きていくこと自体に困難が生じたら?生きていることを、真剣に考えるようになることと思う。このドラマは、日々を生きる主人公がALSを宣告され、生きていくというのは何か、何をすべきかと、命と向き合う大切さを教えてくれる。自分の人生の困難に立ち向かいながらも、大切な恋人を思いやる様子は、その葛藤が伝わってきて、なんとも切なく、命がテーマであることをリアルに感じることのできたドラマだった。
現実にも起こりうることを若い世代へ
主人公・拓人は決して順風満帆に生きてきたわけではない。より良い友人に恵まれながらも、多くの挫折を経験していた。医者の長男として生まれ、医者になることを期待されながら挫折、代わりに医学部へと入学した弟に、親の愛情を奪われていく。苦労して就職した会社で働き、起動に乗り始めた頃、体に異変が起こり始める。就職活動中に出会った恋人・恵とは良い関係を築けていた。このように、ドラマの設定が若い世代に向けられている。親子の関係、兄弟の関係、そして現実社会においても厳しい就職状況。まさに現在進行形の人や、それを経験した人には広く共感できる背景だ。命という難しいテーマを、より親しみやすく、そして多くの人に理解してもらいたいという意図が、よく分かる。だが、拓人の病気が判明したことで雰囲気が一変する。特に、雨の中、自転車に乗れなくなった拓人の気持ちのやり場に自転車を蹴る様子は、象徴的だ。もし、こんな病気にならなければ。なぜ自分は普通じゃないのだ。そんなことを語られているように感じる。健常者としての生活と、それが失われたときの生活と感情を、言葉ではなく役者の表情や目で訴えていた演技や演出はさすがであり、テーマの重さを思い知ることとなる。だが、このドラマの救いはお互いがお互いへの思いやりである。拓人は、広く相手を理解できる人物だ。恵を傷つけまいと離れてみたり、自分を見下す弟の本当の弱さを救ってあげたりと、その過程で、恵と心が通じ合い、バラバラだった家族が一つになれた。病気をきっかけに、自分にとって大切な人を見定め、人のためを思って命を使う。そんな拓人の姿に、何度も感動させられた。
ALSとは。それでも生きていく
ALSは、体を動かす神経系に異常が見られる病気で、命令が伝わらなくなるため筋肉が緩み、力を出せなくなる。手足の動かしにくさから始まり、食べ物の飲み込みにくさやしゃべりにくさを感じ始め、最終的には呼吸困難となるため、人工呼吸器をつけるかどうかという問題が生じてくる。しかも、有効な治療法はいまだに見つかっていない。体は動かせなくても、知能や感覚にほとんど影響がないため、自分の体を自由にできないという精神的苦痛は強く感じる。そして、最終的に人工呼吸器をつけるというが、喉を切開してつけるため、声を一生だすことができなくなり、介護も一生必要不可欠となる。ALSの患者にとって厳しい選択を迫られることになる。ドラマの中でも、この究極な選択のシーンを、省略することなしに描いている。「それでも生きているっていえるのですか」。ALSを宣告され叫んだ拓人が、それでも生きていくと決断をしたのは、どんな人にも生きた時間があり、それを大切に生を続けることが大事であることを、すべての人に教えてくれていると感じるのだ。
参照:日本ALS協会
今を大切に、生きていくということ
命と向き合うことを伝えるこのドラマは、重いテーマであることを考えれば気軽に見れるものではない。だが、ドラマの中に、拓人と恵の友人という明るいキャラクターがいて、その場の空気を和ませてくれる。とてもバランスのとれたドラマだ。この明るいキャラクターに救われて、多くの人がドラマを見て、ALSという難病を知り、命の大切さを理解するのである。そして、その周囲にいる人間が、どのような手助けができるのか。どう理解を広めていくのかも、ドラマを通して初めて感じることができた。自分の生き方をかみ締めると同時に、困っている人に手を差し伸べ、どんな人でも生活しやすい環境をみんなで作っていく。まずは理解を深めるところからで良い。命について、病気についてを追求し、ただ生きていくことの素晴らしさや美しさを表現した、中身の濃い演出であった。
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