絵画として完成されたジョジョの奇妙な冒険シリーズの一つの着地点。
ジョジョの奇妙な冒険史における一つの到着点。
ジョジョの奇妙な冒険の第七部にあたるスティール・ボール・ラン。
舞台は19世紀末のアメリカで行われる約6,000kmにも及ぶ大陸横断レース。
主人公でありレースの参加者であるジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリが、物語が進むにつれて明らかになるレースの裏側の陰謀に立ち向かい、その中で成長をしていくという人間ドラマ。
物語的には6部までで決着のついたディオとの物語が終わり、まったく新しい始まりを想起させる作りにはなっているものの、感情の演出、スタンド能力等、今までに荒木 飛呂彦先生が描いて来た「人間についての研究成果」を見せられるような作りになっている。
脈々と受け継がれてきたジョースター家とディオとの因縁を描く中で、荒木先生はついに答えを見つけ出したのだと感じた。
スタンド能力者達の一筋縄ではいかない能力。
いまでこそありふれた設定である異能力バトル物漫画。
ジョジョの奇妙な冒険シリーズはその先駆けとして常に第一線を走り抜けてきた。
能力者達の種類も多種多様で、様々な種類の敵が登場する。
ここでスティール・ボール・ランに登場するスタンド使いが一体どんな能力を持っているか、例として3つほど挙げさせてほしい。
「金属に息を吹き込み、自在に操作できるバルーンアートを作り出す能力」
「対象者の捨てた過去を引きずりだし、その「過去」を以って攻撃する能力」
「肉体をロープと一体化させ、バラバラに分解して自在に操る能力」
実際に読んでいない人が、このどれか一つでも詳細にイメージ出来たであろうか。いや、おそらく出来ないだろう。
この第7部スティール・ボール・ランに出てくるスタンド使い達の能力は、シリーズを通しても非常に複雑に組み立てられていて、文章だけで見ると情景が浮かばない。
しかしこれは決して悪い事では無く、荒木先生の描く異能力は「絵で魅せる」事に強いこだわりがあるのだ。
つまり、文章や言葉で説明されてもイマイチピンとこないが、漫画を見た時の「こんなやつ見たことない」「どうしたら勝てるんだ」と読者に投げかける技術が非常に良くできている。
他の漫画作品では見た事が無い全く違う結末、展開に転がっていくのだ。
まるで絵画のような構図とタッチ。
妙に生々しい描写や、過度に湾曲する筋肉、体幹のバランスから荒木先生の絵が苦手という人は結構多い。
しかしこのスティール・ボール・ランを最後まで読んだとき、その感想を抱く者は一人としていないだろう。
とくに後半にかけての絵柄は「絵画芸術」のそれに近く、何故荒木先生は「反応が両極化するような絵柄で描き続けて来たのか」という一つの謎が解けた。
「荒木先生は漫画の中で一つの絵画作品を作ろうとしていたのだ。」
ふきだしの中にある言葉や、ジョジョの代名詞となった擬音さえも必要としない「絵」だけで成立するような作品。
そんなものを作り出そうとしていたのだと、そう思った。
キャラクター達は真剣に敵と対峙しているのにもかかわらず、その表情は「無」であったり、まるでダヴィンチの絵画のような現実的でない違和感のようなものが、あくまで絵としての美しさに重きを置いた作品にしているのだなと見てとれる。
現実ではありえない過度な表現と不自然な表情が、このスティール・ボール・ランという物語の独特な雰囲気を演出しているのだ。
本当の正義と悪を考させられる作品。
ジョジョの奇妙な冒険シリーズ全編を通して描かれるのは「人間」である。
今までも様々な悩みやテンプレート化された正義、主人公はこうあるべきだと言う固定観念のような物を常に裏切り続け、読者に予想を超えた人間ドラマを見せてくれていた。
物語の内容はもちろんの事、選択される言葉のセンスやキャラクターを総じて「ジョジョの奇妙な冒険」は描かれている。
ではこのスティール・ボール・ランで荒木 飛呂彦という漫画化が読者に投げかけた言葉とは一体何なのか。
個人的な意見ではあるが、ズバリそれは「本当の悪とは何か」という事だと思っている。
しかもその答えは物語上では解決されていない。
主人公であるジャイロとジョニィは、自分の中にある正義と悪、どちらも受け入れた上で戦って行く事になる。
特にジョニィはおそらく歴代の主人公達のなかでも一番と言っていいほど精神的に弱い部分が多い。泣いている姿もたくさんある。
自分の中にある弱い部分を認めながらも、必死に前へ進もうとする姿や、涙を流しながら運命に立ち向かっていく勇敢さ、そして自分の中にある大きなハードルを越えるまでのサクセスストーリーがジョジョファンの中でも大きな人気を誇っている理由だと思っている。
もう一人の主人公ジャイロも、自分を苦しめる過去の罪の意識や、あまりにも重すぎる運命から逃げる事も臆することもなく、自分で見定めた目的を遂行するために駆け抜けていく。
そして物語の根幹である大陸横断レースというテーマと彼らの生きざまが重なって、名作となって読者達を感動させるのだろう。
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