奥浩哉氏ならではの世界観
「いいとこ取り」が得意な奥氏の「面白さ」の集大成
いぬやしきの著者、奥浩哉氏は、他作品をオマージュして「面白さ」を抽出し、さらに面白いオリジナル作品を作り上げることに秀でている。いぬやしきの前の作品、GANTZもそうであったが、奥氏ご本人もザンボット3をオマージュしたと公言しており、さらに大友克洋氏のAKIRAや藤子・F・不二雄氏のパーマンなどからおいしいところを抽出したような作品であった。
いぬやしきは、アメリカ映画のA.I.や、小畑健氏のCYBPRGじいちゃんG、奥氏自らの作品であるGANTZ、手塚治虫氏の鉄腕アトム、高橋しん氏の最終兵器彼女などから「いいとこ取り」をしている感があり、それが奥氏独特の作風ですばらしいオリジナル作品になっている。
たまに他作家の作品と似通った作品があると、パクリと言って嫌悪されてしまう場合が多いが、奥氏の場合は他作品への敬意あるオマージュとして読者に受け入れられるよう、非常にオリジナリティに富んでいて、むしろそういったいいとこ取りのセンスに脱帽してしまう。
人の役に立つ喜びについて考えさせられる
末期胃がんを宣告され、余命3か月のはずの犬屋敷壱郎、58歳が、宇宙人の過失により死亡、ロボット化して再生するが、その能力はすさまじく、彼は恐ろしい戦闘能力と、不治の病まで完治させる力を身に着けてしまう。私たちは日常で、「助けてもらうこと」にばかり気を取られがちである。しかし、犬屋敷壱郎が人を助けるたびに生きがいに喜びを見出し、時に役立てたことに感極まり涙を流すシーンを見ていると、助けられることより助けることで喜びを見出す事について考えさせられる。「善行がもたらす生きがいややりがい」という、現代人が忘れがちな心を思い出させてくれる。
もう一人のマシン、「皓」の動機は?
宇宙人が何がしかを地球に墜落させて、犬屋敷壱郎を死亡させた際、近くにいた獅子神皓も同じようにロボット化する。彼は犬屋敷とは異なり、その力を無差別殺人やATMからお金を盗むことに利用する。
お金については、そういう能力が身に付けば、魔が差してやってしまおうと思うかもしれないと思うものの、母親や親友思いの彼が、なぜ無差別に殺人を犯しているのか、そのあたりが理解に苦しい。皓は高校生で、親友をいじめた加害者をあっけなく殺害してしまうあたり、幼いがゆえに短絡的なのかもしれないが、一方で母親と離婚し、別に所帯を持った父親とうまく関係を築くなど大人びた一面もあるため、彼の内面をもう少し深く知りたいと思った読者もいるだろう。彼は犬屋敷との戦闘で敗れてしまうが、彼の残虐な顔の根底について、きっかけが何だったのか、知りたいところだ。
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