グロさ・美しさ・熱さで人間と日本へ強くメッセージを残す - いぬやしきの感想

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いぬやしき

4.574.57
画力
4.67
ストーリー
4.67
キャラクター
4.50
設定
4.50
演出
4.33
感想数
3
読んだ人
4

グロさ・美しさ・熱さで人間と日本へ強くメッセージを残す

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

前作継承かと思いきやまさかの展開

奥浩哉先生と言えば、あのスーツを着たあの戦いでしょう。あのグロさと生への渇望、非道とかいうレベルじゃない残虐な世界には衝撃を受けました。終わりは…?といった感じでよくわからず…不完全燃焼でモヤモヤしまくっていたので、まさかこの「いぬやしき」がこんなに読み応えあるとは思いもしませんでした。ガンツと同じ宇宙人ネタなんですけど、宇宙人は最初のときだけの登場ですからほっと一安心。でも序盤はまさかガンツの続編か?という不安すらよぎってしまうシーンがいくつかあります。

どこにでもいる平凡な中年男性と男子高校生。この二人が偶然同じ場所に居合わせ、そこでたまたまそこにドーンと不時着してしまった宇宙人に木っ端みじんにされてしまうところから物語は始まります。え?早速死ぬの?というこの衝撃的な展開は…まさにガンツの彼が列車で引かれて…っていうシーンがすでに頭に浮かびました。似てますよね?そして二人は応急処置として全身をロボットに改造されてしまう…!うーん前作の香りが漂う…ところがすごかったのはそこからの切り替えし。平凡などこにでもいる人間が、いきなり善と悪の人間として生まれ変わるんです。はじめはこのロボットの力をどう使ったらいいのか悩む二人…もはや人間ではないと悟ったとき、それでも人間でありたいと願ったことは同じでした。でも、犬屋敷さんは人を救うことを、獅子神は人を殺すことを、それぞれ選びました。それぞれが生きた証の残し方が決まったんですね。そして物語は二人の力の使い方が描かれていき、直接対決へのカウントダウンが始まる…初めから終わりが何となく予測できるのに、その心のゆらぎがたまらなくおもしろいのです。

正反対の二人

犬屋敷さんの人生は本当に辛そうでした。家族からもバカにされ、だけど言い返すこともできないし、正しいことをしたいと願っているのにうまくいかなくて、もどかしくて…犬屋敷さんはとにかくコミュニケーションが取れない人で、自分の行く末なんじゃないかと思うほど、共感してしまいましたよ。おいおい(笑)。それを言葉じゃなくて、空気感と人の表情、間で表現しているのはさすがといったところです。沁みました。汗とかリアルにキモいと思うんですけど、きょどり具合がストレートに感じられますし、正しいことをしたいという想いがくすぶっているのがもろにわかります。柴犬の花子がすべてを知っているんですが、最後にしゃべりだすんじゃないかという恐怖感もあります。

一方の獅子神はごく普通の高校生で、友達もそこそこいて、別に生きるのに困っていない。だからこそ、自分の生き方に迷っていたりもする。先行きの見えない不安や、未来を描こうとしない無の感情。そこに突然舞い降りた奇跡のようなちから。自分が特別だと思わせてくれる刺激。なんでもなかった自分がすべてを操れるという優越感が、愉快犯を生むんだろうなということを想像させてくれます。そして案外と、気を許した人間にはべらべらと話す。いきなり力を手にした人ってこういうところ安易ですよね。ここで直行がただ説得する人間に終わるのではなく、犬屋敷さんの味方につくことで何とか友達を止めようとする、っていう流れはさすがです。思いつかない展開でした。そして、獅子神の全部が悪いような悪くないような…とても曖昧な悪であることも特徴ですね。渡辺さんや母親は本当にいい人で、その復讐のために最悪の方向へ走ったようなところもあるので…ちょっといい奴かなっていう錯覚を起こしました。結局、元凶はお前だよ、って話なんですけど。プライドの高い奴はこれだからめんどくさい。早く地上まで下りてこい。

犬屋敷さんは果たして正義か

犬屋敷さんは、自分が人間の気持ちを持っているということを、悪を成敗することで得ています。悪事をはたらいているやつを馬鹿みたいに殺すのではなく、ネット上につるし上げとか、目つぶしとかで再起不能みたいにして、正義の言葉を送る。憧れてたんだろうなーいつか自分がこう言ってやるんだって考えていたんだろうなーって思うものばかり。犬屋敷さんの辛かった毎日を知っている者からすれば嬉しいです。しかも、宇宙人の残してくれた機械は、地球の人間の病気を治すことくらい容易いらしく、病院を回って難病の人を治し始める犬屋敷さん。ただこれはね、諸刃の剣になりそうだなって思います。この能力が大々的に知られたら、「なるほど、じゃーもう病院いらないわ。全部犬屋敷さん治せばいいじゃん。」ってなったらよ?医療関係者全員失業だわ。医者看護師だけじゃなく、治すための器具を扱う・検査器具を扱う製品メーカーも全部倒産でしょう。そして犬屋敷さんは恨まれて、いいことをしていたのに、助けたはずの人間からけなされて、陥れられて、人間である誇りを捨ててしまいそう。最終的に、じゃあ自分と変わってくれ、俺は犬屋敷さんみたいに不死身になりたいとかいう話に発展しそうじゃないですか?だから、なんでもやればいいってもんじゃない。喧嘩両成敗や悪の根源を断つことは誰かのためになっているかもしれない。でも直接的に病気を治癒させることは、反則ですよ。

家族ってなんだろう

家族の在り方って何なのか。これがすごく問われている気がします。犬屋敷さんのお宅みたいに、父親としての威厳がみじんもない家庭もあれば、獅子神のお宅みたいに母1人子1人の家庭もある。渡辺さんみたいに、両親をなくして祖母と二人暮らしをしている家庭もある。いろいろな家庭があって、いろいろな家族の形がある。家族の中の当たり前は、他の家庭の当たり前ではない。ただ確かに、お父さんとお母さんがいて、自分が生まれた。これだけは絶対変わらない。だから、犬屋敷家の人たちにも、獅子神自身にも、どうかその命ある喜びと感謝を思い出してもらいたいと思ってやみません。すでに娘は父親を父親として大切にするということを思い出し始めているね…どうか最後の結末がハッピーでも最悪でも、そこに家族や大切な人の愛が残りますように。どんなにすごい事件を起こしても、どんなに素晴らしい人助けをしても、いつかは忘れ去られる。だけど、家族がいれば、命がつながっていれば、確かに自分がそこにいた証明になるんですから。

最後に獅子神が見るものは何か

母親の自殺をきっかけに、完全に渡辺さんとそのおばあちゃん以外を敵と判断した獅子神。「自分が正しい!」という間違った気持ちがひしひしと伝わってくるよ…もう後戻りのできないくらい人を殺してから出会った犬屋敷という同じ力をもつおっさん。もっと早く出会っていたら、もっとたくさん話ができていたら…獅子神がこうなることはなかったかもしれない。獅子神の涙を見ていると胸が苦しいです。もう渡辺さんの気持ちになってます…だってこれだけイケメンの若者がよ?おじいちゃんみたいなおっさんと対峙して、自分が悪であると痛感させられる…人を救うことで人間であろうとする人と、人を殺すことで人間であろうとする人。ただの犬と獰猛な獅子。名前の上でも、ロボットとしても、若さも。全部正反対の二人がどんな答えを見つけてくれるのか。バトル中はハラハラドキドキしまくりで、人が醜いって思い知らされて悲しくなって…いろいろな感情が押し寄せてくるこのいぬやしき。作風的に不完全燃焼もあり得るし、大どんでん返しも普通にありそう。獰猛なイヌ共の決着が気になって仕方ない。

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緻密すぎるその絵の巧さと社会への問題提起が心に響く

よく似ているが進み方は断然いぬやしきみなさんも思い出すことだろう。グロさ極まりないあの黒づくめの連中の生きざまを。その作者である奥浩哉さんが手がけるこの「いぬやしき」は、ガンツとは違って終わりがなんとなくわかってる。そしてそこまでが本当に…切なすぎて、苦しすぎて、それでも人が生きていくことを無情に感じてしまう。そんな物語だ。まさかの宇宙人ネタ、そして人の改造という序盤。「なんだガンツのパチモンかよ」と思ってごめんなさい。号泣もんの展開となっている。何でもない日常の中で、まったく接点のなかった犬屋敷(中年男性)と獅子神(男子高校生)。そんな2人は、まさかの宇宙人と遭遇。しかも宇宙船がミスって着地したっていうことで、同時刻に、同じ場所で、宇宙船不時着によって粉々にされてしまう。「やべーよなんか消しちゃったよ!」って焦った宇宙人が、サービス精神旺盛すぎるだろ!って具合に全身最強のロボットにし...この感想を読む

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