トーナメントで学ぶ噛ませ犬の法則 - グラップラー刃牙の感想

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グラップラー刃牙

4.634.63
画力
4.25
ストーリー
4.13
キャラクター
4.75
設定
3.63
演出
5.00
感想数
4
読んだ人
18

トーナメントで学ぶ噛ませ犬の法則

4.54.5
画力
3.5
ストーリー
2.5
キャラクター
5.0
設定
3.5
演出
5.0

目次

最大トーナメント

刃牙シリーズの記念すべき第一シリーズ「グラップラー刃牙」、全42巻のうちピッタリ半分をかけて行われる一夜の祭りが何を隠すそう、最大トーナメント編である。選手入場から決勝戦まで、あますところなく楽しめる、刃牙シリーズ最大のお祭りだ。トーナメントというのは、バトル漫画には欠かせない一大イベントであるが、それだけに描き切るのは大変難しい。まず、必要な人数を揃えることからして大変だ。トーナメントの最低人数は理屈で言えば4人だが、それではトーナメントとは呼べまい。8人でも、かなりショボイ。チーム戦ならば8チームでもありなのだが……個人戦なら、最低16人は用意したいところ。とまあ、倍々ゲームで人数が増えるのがトーナメントの辛さだろう。人が多ければ多いほど、無駄なキャラやつまらない闘いが増えてしまう危険が生じる。刃牙のように、32人を揃え、かつ、ノーダイジェストで全試合を描き抜くのはなかなかどうして難しい。だって、主人公格の人数には限界がある。魅力ある人物も、そうホイホイ作れるものではない。この点において、板垣先生は驚異的な才能をお持ちと言っていいだろう。恋愛シーンのセンスがいくら×××であっても、刃牙シリーズは格闘漫画だ、気にすることはないッッ!

ところで、32人も格闘士を集めるということは、噛ませ犬も順当に増えていくということである。トーナメントはある意味で、優勝者以外は噛ませ犬になるシステムなのだから、まあ仕方がないことだろう。ここで注目したいのは、以後のシリーズでも度々強者の噛ませ犬になるトーナメント戦士たちの、トーナメントから見る、トーナメント以外の場所での格付けである。初戦敗退からベスト16、ベスト8、ベスト4、決勝戦組と、トーナメント制ではキッチリと実力階層が現れるのも特徴の一つ。トーナメント内外で、彼らの実力はトーナメントの成績で測られるし、新キャラも彼らのどの段階を噛ませ犬にしたかで、実力評価が決定する。ここでは刃牙シリーズにとどまらずあらゆるトーナメントに通じる噛ませ犬の法則を、考察してみようではないか。

初戦敗退組

トーナメントである以上、避けて通れぬ初戦敗退組の存在。作者のメタ的な認識から見れば、こいつらは存在理由がそもそも噛ませ犬であるくせに、ある程度は強く見せておかなければならない厄介者である。彼らは基本的に「優勝間違いなしだぜ」みたいな顔で自信満々に現れて、ボコボコに負けて、厚顔無恥な素直さで開き直る。そのためどうも嫌われやすいが、彼らも格闘漫画には欠くことのできないやられ役なのだ。プロレスだって技は受け役が上手くなければ始まらない。みんなも守護キャラこと本部や「ジョイント・フェチ」ローランド、シャガったさんだけでなく、セルゲイやロジャー・ハーロンも愛してあげてください。で、彼ら初戦敗退組というものは、それだけで格落ちも甚だしいので、噛ませ犬としてもどうもインパクトに欠けてしまう。「BAKI」でロブ・ロビンソンを瞬殺したドイルを見ても、そんなに強い気がしないのは仕方がないだろう。基本的にこの初戦敗退ボーイズが噛ませ犬になる時は、作者も噛む奴をそこまで強くする気がないか、勇次郎大暴れのような、適当なエキストラ代わりにされる程度が関の山である。この法則があるからこそ、本部は何かと波乱扱いをされるのだろう。

ベスト16

トーナメントにおいて一勝を掴んだ彼らには、最低限の強さが保証される。ゆえに、本格的な噛ませ犬化もここら辺りからスタートだ。初戦敗退組は、今更負けても誰も驚かない悲しい集団である。加藤清澄がドリアンに負けたって、誰もそれをドリアンの強さの証にはしてくれない。トーナメントがある漫画において、ここからがマトモな戦士たちの土俵である。もちろん演出上、「強者だが相手が悪かった」ということはあるのだが、それは異例であるのだから、漫画的なトーナメントの噛ませ犬ルールには適用されない。本作において、ベスト16はみな、インパクトのある強者揃いだろう。例外なのは少林寺の三崎健吾と、可哀想だが、紐切り鎬昴昇くらいか。その他は負けていても、強い奴らと認識されるが、悲しいかな、ベスト16止まりの奴らが巻き返しをすることはほぼありえない。なぜなら彼らは、強者の噛ませ犬にするのにはものすごく都合がよいレベルの戦士たちだからである。ベスト16ともなると戦いにも華があるというもので、その華が、ちょうどよい噛み心地になってしまう。少なくとも初戦敗退よりはマシなせいで、ある程度強い奴らの噛ませになるのが、ベスト16の宿命である。

結論、ベスト16は、強キャラの登場シーンで倒されるべし。

そんな中、その法則を握撃で握りつぶし、見事最凶死刑囚を噛ませ犬にしてみせた花山薫のキャラの立ちっぷりには、惜しみない拍手を贈りたい。

ベスト8

まごう事なき真の強者のみが立つことを許される領域、それがベスト8。一人一人に格がある32人トーナメントにおいて、連勝を掴みこの段階まで上った人物は、主要キャラとしての格が保証される。ゆえにそう簡単には噛ませ犬にはならないのが彼らなのだッッ!……と、言いたいところだが、そこは格闘漫画の性、トーナメントを終えた先の新たな敵が弱くていいわけがない。実際のところ、この段階の彼らこそ、噛ませ犬としての受身のプロと言っても過言ではないかもしれない。本作でいうその代表例は、もちろん愚地独歩。読者の誰もが彼を一方えの強者と認めながら、誰もが登場の度に負けを想像する。その義理の息子、愚地克巳ももちろんそうだ。ベスト8こそ、不用意に負かせられるギリギリのラインなのだ。というか実際、刃牙シリーズで考えると、ベスト8止まりは愚地親子にアントニオ猪狩、ガーレン(いちおう柴千春もか)と、見事なまでの噛ませ犬集団だ。誓って言うが、格闘漫画で噛ませ犬になることは、不名誉ではない。噛まれるだけの実力を見込まれている証拠なのだ。そこんところ勘違いしてはいけない。負けが多いスーパー独歩も、それだけ実力を信頼されている名負け役なのだ。

噛ませ犬の噛まれ方は、二つある。すなわち、善戦か瞬殺か。そしてベスト8は、実際のところかなりの確率で瞬殺される。ベスト8を瞬殺できるレベルでないと、物語に緊張感が生まれないからだ。そう考えると、彼らは不憫な立ち位置なのかもしれない。だって善戦すると、相手が弱く見えるのだもの。

ベスト8は一人一人の格が高いため、それを倒すということは、とりもなおさずそいつがベスト4レベルなのだと見なされるということ。しかしながら、ここを超えてくれないと、新たな敵にも格が生まれないのも事実。が、そのせいで次回作「BAKI」にて、中途半端になってしまった男がいる。死刑囚シコルスキー……彼が噛んだ相手は、あろうことかベスト8の二人なのである。それなのに、覚醒前の刃牙にもバケツ&金的喰らうし、ガイヤにボコられるし、どうも情けない。トーナメント的噛ませ使用術的には、大失敗である。

ベスト4・決勝カード

最後の二つは同時に語ろう。いよいよ来ましたベスト4。トーナメントにおける彼らの強さの格を支えるのは、ベスト8を破ったという事実。選ばれた強者をさらにふるいにかけた、正真正銘の強キャラたちである。刃牙シリーズでもベスト4は、刃牙・烈海王・ジャック・渋川と、押しも押されぬ名戦士たちだ。先ほどベスト8はその後、瞬殺されるのが役割と述べたが、その理由自体、このベスト4よりも新たな敵は強い?と、思わせるためと言っても過言ではないだろう。彼らの負けは作中でも異常事態と思っていい。ベスト4の敗北は、たとえ善戦の結果だとしても、十分な格を相手に約束する。いやむしろ、ベスト4が瞬殺されるのは演出的にも好ましくない。彼らは強キャラから一歩抜けた存在であるのだから、ここが簡単に負けてしまってはしょーもない。「じゃあ、あのトーナメントはなんだったんだよ」と、幻滅されることさえありえるのだ。もとから噛ませ犬という演出技法は、リスクも伴う不安定なやり方。ベスト4以降のキャラはその後の全てのエピソードにおいても、主役を張り続けるくらいでなければいけないのだ。とりわけ刃牙において、最も活躍が目立っていたのは烈海王だろう。彼は最初嫌味な一回戦負け風のキャラだったが、結果はなんとベスト4。次作で早々に失態を喫した渋川先生と違い、彼はピクル戦までは負けを知らなかったのだ。誰かを噛ませ犬にする以外に、物語の緊張を保てない格闘漫画というジャンルにおいて、これは快挙である。

ベスト4は簡単に噛ませ犬にしてはいけない。それだけに、噛ませ犬化は切り札的な効果をもたらす。

決勝カードならなおのことだ。

ジャック・ハンマーは、負けが許されないレベルのキャラと言ってもよかった。他がいくら格落ちしても、彼が強ければ最強トーナメントの威厳は保たれる。実際死刑囚編でも彼はシコルスキーを寄せ付けなかったし、神の子アライjrも屠ってみせた。格闘漫画のトーナメント的噛ませ犬法則的には、満点である。それがまさか、初戦敗退組に噛ませにされてしまった刃牙道は、正直歯がゆい気分である。彼、ピクルが出てからいいとこなしじゃないか。願わくば、あのガリガリのダイヤモンドボディをもう一度取り戻し、最大トーナメント準優勝の矜持を見せて欲しいものである。

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