原作が面白い! - ラヴクラフト全集の感想

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ラヴクラフト全集

4.754.75
文章力
4.00
ストーリー
4.75
キャラクター
3.25
設定
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演出
3.75
感想数
2
読んだ人
3

原作が面白い!

5.05.0
文章力
4.5
ストーリー
5.0
キャラクター
3.0
設定
5.0
演出
3.5

目次

ゲームから原作へ

ラヴクラフトと言えばクトゥルフ神話です。この全集はすべてクトゥルフ神話の原作です。クトゥルフ神話はTRPGやアニメといった感じで知っており、なかなか読み物としては手を出しにくいイメージの書物でした。日本の神話系小説もなかなか読みにくいものが多い故に海外ものというだけで遠巻きにしがちの部類にも入っていました。ですが、アニメやゲームになった事で物語に入り易くなっているのではと考え手に取ることが出来ました。実際にページをめくってみると見事に活字ばかり。挿絵の一つもありませんでした。もちろんゲームでお馴染みの神話生物の挿絵なんてありません。小説の最後に舞台となった町や世界の地図が載っていますが物語の中には一切ありませんでした。ルールブックですら挿絵があるのに原作は無いのかと正直落胆もしました。ですが物語を読み進めるとこれがなかなかに面白いのです。きっかけがゲームやアニメだと話のとっかかりを見つけやすく、また本の中に引き込まれやすく感じます。

魅力的で身近な町と不思議な未知の世界

アーカムという町が基本的な舞台ですが物語が進むにつれて次々と出てくる知っているようで知らない名前の町、ドリームランドという世界。アメリカにあるどこかが舞台のはずなのにいつの間にか違う世界の違う町に舞台が変わっている不思議。派生の本には出てくる神々も原作ではあまり登場しないのにしっかりとその存在を主張する神話生物。まるで冒険書でも読んでいるかのような物語。「え、ネクロノミコンとか大地の書みたいな魔導書は原作には出てこないの?」「まだ神話生物の姿しか見てない。名前ってあまり出てこないんだなぁ」「あ、この町の名前有名だよね。」「ニャル様って原作では名前だけなんだな」「ここは一度探索した事のある町だな」「お、あの話の原作がこれか!」と、物語が進むたびに出てくる慣れ親しんだ町や神話生物の名前、そしてゲームで遊んだ話の原型が次々と出てくるのです。話自体も長編から短編まであり短い話だと20ページくらいで終わってしまいますが、その分話の流れが速く、でも神話的恐怖がしっかりと入った物で読み入ってしまいます。長編になると短編と違いゆっくりとした時間軸の中で外堀からじわじわと内側を攻め込まれてくるような恐怖と共に好奇心を駆り立てられます。「この人は最後どうなってしまうのだろう?」「この家で一体何が起こっているのだろう?」と、そんな気分にさせられます。気が付いた時にはその話は終わっていてまた別の登場人物が全く違う町で同じような、でも少し違った神話的恐怖の話が始まっているのです。かと思えば、とある老人の若い頃に経験した不思議な体験が語られていて、それがまた面白く感じ、ついついページをめくってしまい気が付いた時にはその本一冊読み終わってしまう。全集の中には一冊丸々長編小説になっていて章ごとにすこしずつ違う神話的恐怖があり長編を読むのが苦手な人も短編小説を読む感じでページをめくることが出来ると思います。

読者ではなく聞き役

派生の産物であるゲームやアニメもこの原作あってこそであると読めば読むほどわかってきます。サイコロを投げるでもなく、テレビを見るでもなく、ただ紙をめくり文字を目で追っていくだけでその物語が頭の中で再生されていくのです。ラヴクラフトと共に合作した小説も原作を知ると更に面白く、原作の後日談とも取れる話も多々あります。かと思えばオリジナルの外なる神が出てくる話もあり、ひとえにクトゥルフと言っても沢山あるのだと実感します。クトゥルフ=神話生物と思っていても、原作の中ではその姿を殆ど隠し話が進む。一度読んだ話も繰り返し読むと違う姿が浮かんできます。「ウルタールの猫」に出てくるメネスも「白い帆船」に出てくるバザル・エルトンも一度目はただの登場人物だったのが次に読むときはまるで自分であるかの様に話を読み進めてしまいます。かと思えばある男が語ってくれた話は現実味がないのに段々と現実に起こった話のようにも感じます。ラヴクラフトの小説は読み手と言うより聞き手になっていると感じることが多くあります。物語にのめり込めばのめり込む程そう感じるでしょう。一重にそれは日本語訳が的確であるからだと私は思っています。難しい言い回しが少なく、活字が苦手でも読みやすい区切り方。英字から日本語に訳された本でこれほど読みやすい小説はないでしょう。短編小説から長編小説の一章にかけて、詰め込まれている神話的恐怖は微々たるもの読み流しがちな部分も、その物語が終わるとその恐怖がしっかりと伝わる。わかりやすく伝わりやすい表現で一見分厚そうに見える本もあっという間に読んでないページより読んだページの方が多くなる、そして読めば読む程面白い小説、それがこのラヴクラフト全集だと思います。そして何よりもクトゥルフ神話を知らなくてもSF小説としての入門編として入り易い小説だとも思います。

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