最後の最後まで犯人が分からないミステリー
平家の伝説はあまり重要ではない
この作品のツッコミどころは、平家伝説殺人事件というタイトルであるが、実際のところ平家に関する伝説などは、殆どこの作品における殺人の謎とは関係がないという点である。
決して歴史ミステリーではない。ただ単に、殺害された二人の男性が同郷で、そこが平家のゆかりの地だったというだけの話である。もっとも殺害された二人の男性が同郷の出ということが、真犯人を推理する上でキーポイントにはなるのだが、特に平家ゆかりの地でなくても、他の場所でも話が成り立ったというレベルで、源平合戦や平家物語のファンが過度の期待をして読むと肩透かしを食うかもしれない。そういった意味では、著者の内田康夫氏がこの作品を平家伝説と名付けたのはいささか謎でもある。
浅見光彦らしからぬ行動
この作品は内田康夫作品の中でも、女性に縁遠い浅見光彦が出てきたヒロインに対し結婚を意識する珍しい話としてファンにも人気がある。普段は少々相手の女性が気に入っても、のらりくらりと煮え切らない態度ではぐらかしてしまう浅見だが、この作品ではヒロイン稲田佐和を「恋人」と言い切っているなど、平家伝説殺人事件より前に他の作品を読んだ人にはいささか違和感すら感じるかもしれない。
稲田佐和は、作中も聡明で好感が持てる女性ではあるが、どちらかというと外見の美しさの描写の比重が高く、浅見も外見に惹かれている要素が高い。しかも年齢が14も離れているため、浅見がはっきりとしたプロポーズをしなかったのも、内心例のごとく自分の甲斐性がないことから、体よく離別の道を選んだようにも思える。
犯人がぎりぎりまでわからない
この作品の特徴は、作品の冒頭から保険金詐欺をけしかける相手の名前が出てくることで、悪事を働いている人間が誰かはっきりしている点であるが、その人間が次々に殺されてしまうため、結局誰が犯人なのかわからなくなってしまう点がユニークである。「犯人はこいつに決まっている」と思わせておいて、そういった候補がどんどん抹殺されてしまうのだ。結局意外などんでん返しの連続で意外な犯人が浮かび上がるが、そのキーとなるのは平家の伝説ではなく、伊勢湾台風であった。そういう意味では伊勢湾台風殺人事件というタイトルの方がふさわしいようにも思えるが、著者としては最初に犯行のヒントになる「平家の里の同郷出身者が殺害された」ことの方を重要視し、当時書かれていた伝説シリーズにふさわしいタイトルにしたかったのかもしれない。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)