すごく良い映画だった - 映画 ビリギャルの感想

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映画 ビリギャル

3.833.83
映像
3.83
脚本
4.00
キャスト
4.50
音楽
3.83
演出
4.00
感想数
3
観た人
5

すごく良い映画だった

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次


なんたって、配役が良かった!


偏差値30で学年ビリの落ちこぼれが、短期決戦で偏差値70の難関に挑むという、かなりキャッチーなサクセス・ストーリーですね。それだけに中身はどんな仕上がりになっているのか、ずっと気になっていました。受験とは主役である学生はもちろんのこと、家族や先生、塾教師とそれぞれの立場で乗り越えるべき壁に向き合うことになる試練。いろんな立場の人がこの映画に関心を持ったのではないかと思いますが、私も公開当時から気になっていて、たまに立ち寄る本屋さんで平積みになっていた原作をパラパラめくってみたりしたんですが、どうせ端からIQの高い子が高い集中力と資金力で掴み取った結果だろうと、結局は劇場に足を運ぶことなく時が経ってしまった感じです。

まず何と言っても、落ちこぼれ受験生・さやか役の主演女優・有村架純の漫画チックな可愛さが、うまいことストーリーにハマっています。ギャル独特の話し言葉も流れるように自然な感じで可笑しかった。共演の塾講師役、伊藤 淳史も好演しています。私はこの俳優さんのことは朝ドラで初めて意識して見ていたんですが、ちょっと気弱で実直そうな役どころがよくお似合いの個性派俳優ですね。この映画の先生役も、実際に居そうなタイプの熱血教育者で、感情移入がしやすかったです。調べたらあの仮面ノリダーに出演していたチビノリダーだというではないですか。あの可愛かった子役だったとは!そう言われてみれば面影がありますね。たいへん衝撃的で、感動しました。

ありきたりな「家族のドラマ」を丁寧に描き出す

この映画のすごいところは、主人公と塾教師のやり取りを軸に父親や弟や妹、結構重要な位置を占めている母親の心境などが丁寧に描き出されていて、すごく奥行きのある、味わい深いドラマに仕上がっているところではないでしょうか。後半あたりからは不覚にもグッと込みあげてくる場面が何度もありました。頑張って少しずつ結果を出していく過程はもちろん感動的ですが、主人公のギャルが挫折して母親が心情を吐露するシーンなど、子を持つ母親なら多くの人がおなじ経験をしているであろう共感しやすいエピソードを効果的にさらりと織り込んでいて、とても好感が持てました。

クールで知的だけど頑固に見える女優の吉田羊が、自分の生い立ちを育児に引きずりつつ頑なに子供の個性を尊重しようとする母親の役にピッタリのイメージで、まったくストレスなく映画を楽しめました。父親役の田中哲司の演技もすごく良かった。星一徹さながら、息子に自分の果たせなかった夢のかけらを押し付けてしまい、親の期待に応えようと必死にもがくわが子が壊れそうになるまで気付いてやれないという、ありがちな“日本の父親”像。結果は初めから見えていただけに、切なくて良かった。

「今まで野球しかやってないから、この先どうしていいか分からない」と息子から言われた時の父親の気持ちを想像すると、文字通り胸が締め付けられるような思いでした。自分の失敗で子どもの人生を台無しにしてしまうのではないかとの強迫観念は、おそらくどの親も持っています。観る人によって、それぞれ身に詰まされるものがあるだろうと感じました。

「野球とのお別れ儀式」も効果的なシーンでした。この映画は、ひとつひとつのエピソードが完結していくので見ていて楽だったし、気持ち良かったですね。受験の日にマイクロバスで会場まで送ってい行く場面も、少し間違えばグダグダになりそうな場面ですがとてもうまくまとめられていて、父親が老夫婦を手助けするシーンや、それを見ていた娘の心の変化や捨て台詞などもすごく自然。とくに最後で家を出ていく娘をおんぶする場面などは、涙なくして観ることはできません。長いあいだすれ違ってきた父親が、後ろから走り寄る娘に気付いて、とっさに反応する姿にもグッときます。

親の気持ちに寄り添う

子どもって、本当にあっという間に大きくなってしまうんですが、親はいつまでたっても小さかった頃の面影を追いかけようとして、いつでもあの頃に戻れるような気がしているんですよね。ともすればダレてしまいがちな「まとめシーン」なのに、父親の複雑な表情からは難関大学受験以上の物語や、家族の長い歴史が汲み取れるような気がして、思わず父親にもらい泣きしてしまいました。そういう微妙な親心みたいなものも押し付け感なく、あたたかなメッセージとして伝わってきました。小さなシーンも丁寧に作られていて少しも無駄が無い映画だったという印象です。

そして高校教師の西村役は私の大好きな俳優、ヤスケンこと安田 顕。本当にいつも嫌な役がナチュラルで、キマッていますね。この役柄で全裸はさすがに無いなと思っていたら、エンドロールでしっかり脱いでいて笑えました。ひとつだけ最後まで引っかかったのは、中途半端な「塾長」の存在でしょうか。おそらく原作には登場しないキャラだと思うのですが、どういう意図で出来上がった登場人物なのか気になるところです。

いびつな親子関係も、教育現場の実情もさらりと見せる

これは原作の問題なのですが、主人公さやかの母親は学校側からすればいわゆる“モンスターペアレント”だし、人として偏った思想があるようにも思える人物で、所どころ「?」と思うような場面もあって考えさせられました。育児のスタイルは人それぞれと言われてはいても、抵抗を覚える人も少ないと思うのですが、この映画ではその辺のところもスマートにカバーしている気がしました。まあ、人さまの生き方をアレコレいうのもおこがましい話だけれど、実際「ビリギャルのその後」などと騒がれた実際のさやかさんのインタビュー記事などを読んでいると、本番前に燃え尽きちゃってる感が強いのです。

初めから一流私学に受かって環境を変えたいというのが明確な目的だったので当然の話で、映画でも描かれているように母親が授業中の居眠りを公認するよう先生と直談判したというのも実話のようで、常識で考えれば先生もこの時点で先が見えていたはずで、おそらく指摘したと想像できるのにその辺のところは映画では触れられていません。学校が最後まで悪として描かれていたのは少し気になりました。「人間のクズ」という表現に固執してしまい真意を汲もうとせず、自分たちの姿を顧みようとない親子の姿には共感できませんでした。

世代を超えて連綿と影響を残し続ける「育児」の難しさ


子どもの可能性を信じて伸ばそうという大切な題目が、好き勝手にやらせればその子が幸せになれるかというと、それはまた別の話なのだという一番の基本のところに戻ってしまいます。それは塾講師にも感じることで、聖徳太子を“せいとくたこ”と読んでしまうセンスの持ち主にノリで慶應をすすめるというのは、やっぱりどこか発想がいびつな気がします。“ふとこ”なら少しは笑えたのに。生徒の個性を認めて心理学で伸ばす優秀な教育者などと持て囃されているようですが、人が人を教育するということ自体がそれほど簡単なものでない以上、ビジネス第一主義と揶揄されても仕方がないと思います。

たとえは良くないけれども、聖書の中に「犬は自分の吐いた物の所へ戻る」という箇所があり、紀元前の人が上手いこと言ったものだと思うのですが、何かのきっかけや思いつきで一度は高い志をもって動き出したものの、やっぱり人は自分にとって居心地の良い場所へ知らず知らず足が向くというか、持ち前のセンスみたいなものが結局はその人の人生を左右してしまうというような意味です。

ドラマ中でも「どうせ自分たちはこの程度」という台詞が何度か出てきたように、努力すれば何とかなるということと、それ以外のことはやっぱり別の話なのだという当たり前のことを深く感じた作品でした。全体として、そもそもの原作が物珍しさばかりであまり中身のない実話だった割には、配役や演出など映画として思っていた以上に良い作品で、家族の一連の出来事を綺麗にまとめ、原作を最大限に生かした良い映画という印象で、最後は“観てよかった”と思いました。

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