意外(?)な才能 - ロマンス小説の七日間の感想

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ロマンス小説の七日間

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文章力
3.50
ストーリー
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キャラクター
3.25
設定
2.75
演出
2.00
感想数
2
読んだ人
2

意外(?)な才能

3.03.0
文章力
3.0
ストーリー
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キャラクター
2.5
設定
2.5
演出
2.0

目次

もっと早くその才能に気づきたかった

時すでに遅し。後悔先に立たず。ただ過ぎに過ぎるもの、帆をかけたる舟、人の齢、春、夏、秋、冬。とはよくいったものだ。

何が言いたいかというと、筆者は後悔しているのである。なぜこんなに気づくのが遅かったのか。あれだけ少女漫画好きを公言している三浦しをんがロマンス小説を書けない訳がないじゃないか! と。

それほど、私は三浦しをんが作中に創作した“ロマンス小説”に驚き、心惹かれているのだ。はっきりいって本編よりずっと良かった。主人公たちの恋愛を差し置いて知り合いのストーカー問題に首を突っ込んでいる本編より百倍ぐらい面白かった。

題名の明かされていない“ロマンス小説”は、主人公・あかりの手によって大幅に改編されている。あかりいわく、“予想できる”ハッピーエンドから、ヒーローであるウォリックの死、アリエノールの不貞、シャンドスとの別れ、という切ない恋物語に改編された一連の物語はハーレクインのようで、「これもいつもの三浦しをんだろう」とタカをくくっていた私にボディブローを食らわせてきた。同時に、「しをんセンセーこんなに書けるんだったらロマンス小説を書いてくれればいいのに! 」と心で地団太を踏みまくっている次第である。

そもそも、日本産のロマンス小説というのを筆者は聞いたことがない(いつだったか、純文学をエロ小説呼ばわりする人間に出会ったことがあるが、純文学に造詣が浅い筆者でもその括り方には首を五回ぐらいひねったので、ここでは純文学≠ロマンス小説を位置付ける)。

日本でロマンス小説の需要がない訳がないのだが、なぜだろう。仕掛け重視の回りくどい日本文学やヒロインが病死してばかりの少女漫画よりずっとロマンに溢れて面白いと思うのだが。

と、ここまでうだうだ言ってしまうほど、本当に“ロマンス小説”の出来が良かった。三浦しをん御大ならびに出版社の方々には、ロマンス小説の刊行をお願いしたく存ずる。

“ロマンス小説”と本編の関連性を真面目に考察してみた

さて、暴走しすぎた感の否めない前項とは打って変わって、真面目に考察していこうと思う。

この『ロマンス小説の七日間』を一通り読み終えたとき、筆者はなんともいえない消化不良感に見舞われた。と、いうのも、“ロマンス小説”とあかりたちの現実を、一つの作品として両立させた意図がくみ取れなかったからだ。

ある程度読書を好む人ならわかるだろうが、よほど下手か素人小説でない限り、作者は作中に無駄なくだりや構成を入れたがらない。この『ロマンス小説の七日間』でも、“ロマンス小説”とあかりの物語の二本立てにしたのは、きっと意味があると思いながら筆者は読み進めていった。

だが、見つからない。きっと二つの物語に関連性があるのだろうと頭を悩ませたが、やはり見つからない。政略結婚でありながら、一緒に暮らしていくうちに愛を育んだウォリックとアリエノールはあかりの理想の象徴なのか? 恋人のあかりに何も告げず出ていってしまう神名をシャンドスに重ねたのか? 遠くに旅立ってしまったシャンドスを追いかけるかもしれないアリエノールは、神名を追いかけるあかりの将来の暗喩なのか?

うーん、書き連ねていったけれどやっぱり釈然としない。

冷酷なことを言うようだが、この辺りはまだ『ロマンス小説の七日間』を執筆した当時の三浦しをんの未熟さが表れているかもしれない、と筆者は思っている。もともと、三浦しをんは伝えたいこと――主題をダイレクトに表現する作家であり、仮にキーワードの暗喩を物語のなかに忍ばせたとしても、一か所や二か所だ。その明朗なところもまた三浦しをんという作家の魅力なのだが、『ロマンス小説の七日間』で読者の読み解けない暗喩を忍ばせたとしても、あるいはアリエノールとあかり、二つの物語の関連性を記さなかっただけにしても、物語は中途半端で消化不良ぎみだ。

何度も言うが、アリエノールが主役の“ロマンス小説”が素晴らしい出来だっただけに、何が言いたいのかいまいち伝わってこない本編がぼやっと霞んでしまった。あかりの父親のくだりはいらない気がするし、何よりまさみちゃんがいらない。

筆者の読み解きが足りないだけというツッコミは大歓迎。読者、特に三浦しをんファンが『ロマンス小説の七日間』をどう評価するか、ネットの海を探して見てみたいと思う。

三浦しをんの理想は今回もやっぱり存在

三浦しをん作品実写化の常連、松田龍平は「世の中をナメた男の演技が似合う」と評されているようだが、本当に三浦しをん作品の男たちは世の中をナメている男が主役になることが多い。

今回の神名にしてもそう。無職で奔放なダメ男に惹かれ振り回される主人公。三浦しをん作品の「主人公が文筆業で、男が自由奔放」率は本当に尋常じゃない。

もちろん、それが悪い訳ではなく、むしろそういった小説が支持されているあたり、三浦しをんの作品は魅力的なのだろうと思う。

たまには違うヒーローがいてもいい気がするのだが……。

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好きだけれど、結婚はしないという選択肢の肯定

物語を書き換える今回は、三浦しをん著『ロマンス小説の七日間』(角川文庫)について考察する。この小説は主人公あかりが仕事で翻訳する英国中世騎士道ロマンス小説の物語と、主人公の生活する現実世界での出来事と平行して展開する。そしてあろうことか、あかりはこの内容に対し、「なんじゃこりゃ」とばかりに手を加え、書き換えてしまう。あまりにもその内容がファンタジーで続きが想像できてしまうからだ。今回はこの点に注目し、ロマンスと作中の現実世界の対比を通して見える現代の結婚観について考えたい。一緒にいることと結婚は別物まず、主人公のあかりはフリーランスでの翻訳業を生業として自身で生計を立てている。交際している神名(かんな)は、企業で営業職についていたものの、ある日突然、仕事を辞めて旅に出ると言い出してしまう、かなり自由な男性だ。そこで、注目したいのが、神名が旅にでる、という時にあかりの選択肢として元々神名...この感想を読む

3.03.0
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