青春時代のバイブル
中二病さんにぴったりです。
私がこの妖怪アパートの幽雅な日常を読了したのは、中学生の時、およそ5~6年前である。
これを読んでいる方々には中二病という言葉があることはご存じだろうか。私は中学時代、まさにその中二病そのものだった。
社会に対し自分の考える正義を貫こうとあがき、もがく…もっと簡単に言えば、面倒な痛い子供だ。
そんな私にピッタリな作品だったと思う。
まず、主人公の夕士という少年のキャラクター。
とてもいい設定だ。両親を早くに亡くし、親戚の家に世話になっていたが、一刻も早く自立するため、寮付きの高校へ進学。
しかしその寮も火事となり、アパートを探していたところ寿荘を見つけるがそこはいわくつきの物件だった。
今考えてみると、とんでもなく波乱万丈な、というより不幸に見舞われすぎな少年である。
だが主人公が何もかも恵まれていてただ敵とみなすものを倒していくだけでは中二病の心はくすぐられない。
この不幸さがたまらなく良いのだ。
そしてその主人公を支えるアパートや学校で関わる様々なキャラ達…。
なかでも詩人、画家はいい味を出している。
悩んでいるときにカラッと笑い飛ばされ、話を酒の肴にされ、それでいながら大事なキーワードをポン、と置いていく。
素晴らしい大人たちだ。これこそ求めていた大人像。
しかしいまだに、詩人の子供の落書きのような顔、という表現がなかなか想像できない。
不細工なのか?いや、ただ単純な顔つきだ、ということなのだろうか。
そういった想像力をかきたてられる表現も実に面白い。
そしてアパートで一番大事な人は龍さんという存在ではないだろうか。
夕士の心を解きほぐし、目の前の世界を広げてくれた存在だ。
彼らの存在は、きっと見る人を選ぶが、それが妖怪アパートという世界なんだろう。
来たければ来ればいいし、来なければそれでいい。
夕士が、寮が直されてもなおアパートへ舞い戻ったのは、そんな姿勢が心地よいからだろう。
腐女子さんにもぴったりです。
一方で、夕士の生活はアパートだけではなく、高校での生活もなかなかに楽しそうだ。
特に千昌ちゃんとの絡み、そしてそれを盛り上げる姦し娘たちの存在は不可欠。
中二病と同時に腐女子(男性同士の絡みを恋愛ドラマを見るかのごとく楽しむ女子の総称)でもある私は、そういった絡みを見るのが大好きだった。
とても魅力的で、頼りになるが病弱というギャップ。そしてそれを看病し心配する夕士…。
田代たちと一緒に叫びたい。
その光景を見たい。
そしてその光景を隠し取りをして田代たちとシェアしたい…!
何度思ったことだろうか。
しかし学校での夕士の≪ハニー≫は千昌ちゃんだが、こちらも忘れてはならない。親友である長谷だ。
アパートでは長谷と夕士は夫婦と言っても過言ではない仲だ。
もっとも夕士は嫌がるだろうが…。(その一方で長谷のまんざらでもない顔がちらちらと思い浮かべられる。)
るり子さんの料理
この作品の中では人物の絡みのほかにも、るり子さんの手料理をふるまうシーンが数多く出るが、これがまた素敵だ。
まるで目の前にその料理があるかのような、美味しそうな表現なのだ。
そしてそれは本以外にもるり子さんの料理メインで本が出版されるほど。
るり子さんは生前小料理店を持つ夢を持ちながらも亡くなった。
だが今となっては小料理店を通り過ぎて料理本を出されたのだから、正直形は違えど願ったりかなったりだろう。
よかったね、るり子さん!と白魚のような手と手を取り合いたい。
最後に~亡き先生への思い~
今は亡き香月日輪先生だが、生前講演会でお会いしたことがある。
想像していた人よりもふっくらしていたが、とても楽しそうな人柄だった。
そしてキャラへの愛は深い。先生は、それぞれのキャラデザインをして取り組んでいたそうだ。しかもめちゃくちゃイラストが上手い。
その先生は、10巻をめどにして妖アパを終了された。
キャラが勝手に進めてしまう、ということを言っていた。だから終わらせると。
ある引退した歌手も、これが私の一番最高傑作だ、とさまざまな曲を作り上げたのちに去った。
ずっと続いてほしい、もっと見せてほしいと読者の私たちは思うが、先生はきっと一番いい状態で終わらせたかったのだろう。
キャラが暴走し、物語の収拾がつかなくなる前に。
先生は、とても感動的に、そして私たちの心にこの作品を残しながら旅立たれた。
私は、この作品に、先生に人生で楽しく素晴らしい気持にさせてくれたことを感謝したい。
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