前半部の謎の提示と読ませる力はすごいが
謎満載の前半部
前半部においては謎めいた構成で、いったい、何がどうつながるのかわからないから、次々とページをめくりたくなる。具体的には、プロローグで描かれる理不尽な昔の無差別殺人事件、これと第1章から始まる主人公の家族の朝顔への異常な執着がどうつながるのか、そんなある朝顔市の夜にせっかく知り合った若い主人公とその彼女はなぜ家族からの圧力で別れなければならなかったのか、黄色い朝顔の意味するもの(これをあまり深追いするなと忠告される人たち)、そして別の朝顔(植物)愛好家である老人が発見した黄色い朝顔とその後、殺される老人。その謎を追う孫娘とこれに先立ついとこの自殺。のっけから謎の満載で、次々と読ませる推進力は相変わらずすごい。
最初の驚きは花じゃなく種だった
読み進めていくうちに、まず大きな謎が明かされる。最初の驚きは、なぜ黄色い朝顔かという点が明かされるところである。つまりはずっと、なぜ黄色い花の朝顔(を追うこと)が危険なのかを考えさせられていた読者にとって、実は、花ではなく黄色い朝顔の種が問題だと明かされる時にはちょっとした驚きであった。その種が実は麻薬として利用されていたのだとわかった時である。しかも政府も過去から麻酔代わりとして古くから研究を続けていたという。(江戸時代までさかのぼって研究されていた)そして、過去から代々、この黄色い花を追う人々、黄色い花が世間に出回ることを防ごうとする家族。絶滅したはずの黄色い朝顔が秘密裏に栽培され、出回ってた。それが、過去の無差別殺人事件の殺人者が精神錯乱し殺人を犯した原因だった。とわかるのである。
後半が性急で残念
ただ、その後が、性急に物語が終息していくので、とにかく早く説明して早く終わらせようという感じが伝わってくる。全然、秘密を打ち明けてくれなかった人が喋り出し、真理に近づけそうもなかった刑事が急に事件の核心に迫る。。作者はそういうつもりはないのかもしれないが、前半部で提示された謎が、ある意味、簡単に、急に、説明的につながっていくのでこれが残念。もう少し長くなってもいいから、ゆっくり展開しても良かったのではなかった。これほど、後半が簡単に収束してくると主人公と老人の孫の存在も、その会話もなんとなく紋切り型で、リアリティがなくなっていく感がいなめなかった。
また、フィニッシュに、夢をあきらめず再度チャレンジするというようなテーマを残しているが、これも多少青臭くて、前半部の緊迫したミステリー感が一挙に晴れすぎる気がする。
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