人の記憶の不明確さの恐ろしいこと。 - 不安な童話の感想

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不安な童話

4.004.00
文章力
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ストーリー
3.50
キャラクター
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設定
3.50
演出
4.00
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人の記憶の不明確さの恐ろしいこと。

4.04.0
文章力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
4.0

目次

自由闊達

本作品の最後の解説は小池真理子先生でした。小池真理子先生はこの作品を、自由闊達な筆さばき、と表現されています。
読み終えてからこの言葉を聞くととても頷けるんですね。
本当に自由で、勢いが衰えることを知らない。
いいイメージでは子犬が元気に外で走っている風景、不気味さを取り入れれば釜を持った老婆が血眼になって獲物を探す様が思い浮かびます。
私は圧倒的に後者がこの作品には合うと思うし、子犬が走る様子に不穏な雰囲気を感じとる人はまずいないでしょう。
あえて付け足すなら、子犬が楽しそうに走っていたら、気がつくとぼろりと眼球が落ちて次に鼻が解けたように変形し、口は後頭部まで避けて、しかしそんなこともお構いなしにこちらに寄ってこようとする。
メルヘンチックな和やかな空間から某ゾンビゲームのようなホラーに成り替わる光景に変わるでしょう。
読み終えてもその残像が消えることがないんです。
それは、仲間たちと一緒になって謎の真相に迫ろうとすればするほど危険が増し、残虐さの幅が膨れていくから、暴力的な恐怖が強い作品だからこそ衝撃が綺麗に消えるということがないのだと思います。
それも意図的にプロットに忠実に描いた場面なのか、はたまた物語に自我が芽生えて暴走した結果なのか。恩田陸先生自体に見えない何かが取り憑いて作品を展開させたのか、わかりませんが、作品中の架空の犯人の意思があちらこちらに散布しそうで、その恐怖からなかなか抜け出せずにいます。


父親、とは?

結局主人公とその姉の父親は英之進でいいのだろうか。
はっきりと断言しておらず、また最後の場面で親子の会話というものをしないし、まず主人公は時間をとって会っているのに、父親であるという自覚がない。
正真正銘の赤の他人のような振る舞いで、エピローグで展開された話に現実味がなく風になって消えてしまって煮え切らない、と思うのは私だけでしょうか。
ここで断定的に明言してしまうことがミステリアスな雰囲気を殺してしまうのであれば演出の一環として納得はします。
しかしそれにしたって最後があっさりしすぎていて付いていけません。
私の読解力、理解力の乏しさからだと思いますが、父親だと納得することに抵抗があります。
主人公と秒が異母兄弟で、しかし秒のお母さんの生まれ変わりが主人公で、と随分設定をややこしくしてくれたな、と混乱が治りません。
自分の父親の不倫の末に鋏が渡り歩いて人ひとり死んでしまうことになるという数奇な巡り合わせは、小説ならではだと思うのですが。
しかしそのために実の妹まで殺されかけることになるとは、恐ろしいですね。
最後のエピローグは主人公のお姉さんが回想するシーンになっているのですが、話の途中まで影の薄い存在になっていて、それもまた厭らしさを醸し出していると私は思います。
きな臭いと言うんでしょうか。
最後の最後にどかんと衝撃告白して注目をかっさらうあたり、小回りのきく配役だなあとその自在性が胡散臭くて嫌でした。
これは私にとって二度三度目を通さないと納得しない作品であり、またきっと読めば読むほど納得のいかない結末を迎えるんでしょう。時間をおいて作品を眠らせてから、再度手に取ろうと思います。


直情型の女性

悍ましいですね。
直情型で欲情を隠すことなくおっぴろげて、嫉妬や自尊心の強い女性は鳥肌が立つほど魅力的だと思います。
その存在感は他者を決して受け入れない姿勢からダイヤモンドのようだと思いました。
傷さえつけられない、光を与えれば燦然と輝くその姿に虜にならない人はいないでしょう。
カリスマ性とはきっとそのようなもので、しかし、それを上手くコントロールしないと禍の元になってしまう。
特に女性に関しては考えたくもない現実ですね。
高校生の同級生で昔恋敵だったというエピソードが出てきます。
選ばれないことが嫌だと、相手に好きになってもらうという当初の目的すら忘れさせる自己顕示欲とは一体なんなのでしょう。
芸術家は一様にそのような感情を持っているのでしょうか。
形はきっと違うと思います。
自分の作り出すものに対して一定の自信とプライドはあるかと思います。
そうでなければ生き残れませんから、競争の中で抜きん出て才能を発揮するということは並大抵のことではないと思います。
しかし、そうは言ってもここまで外の世界を遮断してしまうのはどうかと思うんです。
関心を一身に受けて、自分さえ良ければいいというその考えが同じ女性として許せないです。
架空の人物に腹を立てても仕方がないのですが、我が子に手をかけるなんて、しかも恋人の愛情が子どもに行くことに嫉妬するなんて、もう信じられないです。
読んでいてやはり女性の敵になりやすい人物だと改めて思いました。
生い立ちがどうとか、考慮してもやはり生理的に受け付けません。
この作品はいい面も悪い面も含めて私の中でかなりの問題作です。
もう一度じっくり読みたいと思います。

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