若さ溢れる男どもの青春活劇!
今を時めく小説家、有川浩の青春小説
有川浩と言えば、デビュー作『塩の街』から数多の作品を出版し、今最も勢いがあると言っても過言ではない若手小説家である。
『図書館戦争』『阪急電車』『県庁おもてなし課』『フリーター、家を買う』………その作品は数多く実写化され、どれも人気を博している。先日も『植物図鑑』が実写映画化されたばかりだ。
有川氏の作品に特徴的なのが甘い恋愛描写だ。男女の心の機微を繊細に描き、読んでいて羨ましくなるような素敵な恋愛を描いている。
そんな有川氏の作品群において異彩を放つのが、この『キケン』だ。
『ユナ・ボマー』上野&『大魔神』大神
主人公・元山高彦は某県都市部に所在する成南電気工科大学に通う一回生。入学当初の忙しさが一段落し、早々にできた友人・池谷悟と共に部活勧誘のチラシを眺めていたところ、機械制御研究部・通称『機研』部長・上野直也に声をかけられ……というシーンから物語は始まる。
お調子者でノリの良い二回生の部長・上野と、上背があり寡黙で目つきは悪いと迫力満点な要素の揃った二回生の副部長・大神を中心に、新入部員の一回生達がドタバタの大学生活を送るというなんとも少年漫画的なコメディだ。
部長の上野は好奇心旺盛で積極的に遊び回る。そこまではごく普通の大学生なのだが、なんと趣味は火薬弄りなのである。最初に火薬を爆発させたのは小学三年生だったというから筋金入りだ。
副部長の大神は背が高くがっちりとした体格に鋭い目つき、寡黙な性格と周囲から恐れられているが、好き放題やる上野のストッパー……と思いきや問題さえ無ければ積極的に乗る男だ。伊達に上野とコンビではない。
このコンビに最初の頃は一回生達が振り回されるのだが、暮らしていくにつれてそのノリにも馴染んでいき、先輩二人を時に振り回し返すことさえ出てくる。
彼らが『機研』に馴染んでいくその過程もなんとも面白い。
輝かしい青春と、その終わり
いつも楽しそうな『機研』の面々であるが、彼らも大学生。
二回生の上野と大神は三回生になり、四回生となって、いずれ卒業し社会へ飛び立っていく。一回生の元山達とて同じことだ。
上野達と同じように『機研』の伝統を下級生へと伝え、同じように社会へ羽ばたいていく。バラバラの進路では親しい友人といつも一緒というわけにはいかず、段々と疎遠になっていく。
就職し、結婚した元山は妻と共に卒業以来の成南大学祭を訪れる……
彼らの青春はとてもワクワクして、とても笑えたからこそ、最後のシーンが胸を衝く。
男たちの青春
この小説は、青春時代の話を妻にねだられた元山を語り手として進む形式だ。
工科大学に女性というイキモノは、まぁいないこともないが希少生物。特にトラブルメーカーズな『機研』に女子学生など入ってくるはずもない。
よって彼らは男どものノリで楽しく生きる。
後書きで作者の有川氏も書いているが、『機研』に女性が一人でもいればここまで痛快な青春小説にはなっていなかったであろう。好き放題やるのは男まみれの内輪ノリだからであり、女性が混ざれば人目を気にしてちょっと礼儀正しくなってしまうのだ。
驚くべきは、これを女性である有川氏が執筆したという事実だ。
ここまで見事に男ノリを描いた小説は昨今珍しい。
恋愛小説が多く取り沙汰される有川浩作品であるが、こういった作品もまた書いて欲しいと切に思う。
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