小さくまとまっている短編集。斬新さはない - 女ともだちの感想

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小説レビュー数 3,368件

女ともだち

3.503.50
文章力
3.50
ストーリー
3.20
キャラクター
3.80
設定
3.50
演出
3.50
感想数
1
読んだ人
1

小さくまとまっている短編集。斬新さはない

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
3.2
キャラクター
3.8
設定
3.5
演出
3.5

目次

作者の個性を感じられますか?

作者は、1人ではなく、角田光代、井上荒野、栗田有起、唯野未歩子、川上弘美などの同じ年代が書いている。違う作家が書いている短編なので、違った角度からの話が楽しめるかと思ったけれど、どれも同じような作品だったので、少しがっかりしました。
年代が同じ女性作家なので、似通ってしまうのは仕方ない事かも知れませんが、女同士での勝ち負けや、派遣、結婚、友情などのテーマがどれも、浅く切り取られているだけの様な気がします。ある意味、誰もが持っている愚痴を、もっともらしく文章にしてあるだけなのです。

どれも派遣というポジションが、誰かをうらやみ、コンプレックスを抱えているという設定からなっており、最後には実はそうではなかった、彼女もこんな悩みを抱えていたのだ。という感じで締めている作品が多く、ちょっと飽きてしまった感じです。これなら、最近読んだ男性作家が描いた、女性の心理を描いた作品の方が、面白かったように思えます。とにかく、小さくまとまり過ぎている、スケールの小さな作品ばかりです。

一番気になったのが蒟蒻

「女ともだち」の中で、一番気に入ったというか、気になったのは、「野江さんと蒟蒻」です。この作品は、はっきり言ってわかりませんよね?だから、とっても気になるし、腑に落ちないのですが、どうも考えさせられます。

まず、一番気になる事は、どうして野江さんは、夏彦の家に行ったのか?あんなに、人とのコミュケーションが苦手で、人と会話するのを面倒だと思っている野江さんが、夏彦の家に行ったのかです。そしてどうして、蒟蒻を叩きすぎたのか?です。さらに、夏彦の嫁である有沙は、野江さんに、大事なエプロンを貸したのか?です。本当に気になるところだらけの作品でした。野江さん側からの作品があれば、ぜひ読んでみたいと思いますね。私が、これらの事を推測しますと、やっぱり野江さんは、夏彦が好きだったのだと思います。心に思っていた人に、蒟蒻を好きだと言われて、舞い上がったのに、結婚すると知らされる。野江さんは、なんとか蒟蒻の炒め煮を食べてもらいたいと、夏彦の家に上がったけれど、2人の生活を目の当たりにして、必死に蒟蒻を叩いてしまったのだと思います。この作品は、肝心な部分を全然説明してないので、こちらの妄想が広がってしまう作品ですね。

思い出話はつまらない

その時代を共にしていた人達と語る思い出話は、尽きる事がなく楽しいものですが、小説での思い出話しは、退屈でつまらないと思います。過去のことばかりで、今その人のどうなったか?どう生きているか?困難を乗り越えたか?今、起きている現実こそ描く必要があるのでは、ないでしょうか?人としての過去や思い出は、確かにその人自身を作り上げたのですが、読みたいのは作り上げられたことではなく、その先なのです。
そのような事を感じた作品は、「海まであとどれぐらい?」でした。派遣時代に仲の良かった女友達同士が、シナリオ作家となった女ともだちの家に遊びに来ることを、過去の出来事を重ね合わせて描いています。確かに、人の過去というのは気になるところですが、現代の話につながらない思い出話は必要ないと感じました。

何も話さなくても良い関係とは?

「その角を左に曲がって」は、不思議な女ともだちの関係だなと思います。友達とは、話し合うからこそわかりあえるのだと思いましたが、この作品では何も話さなくても良いという関係が、なんだかうらやましくもあります。人間のコミュニケーションの中で、沈黙が怖い事って、誰にでもあると思います。でも、ここに出てくる聡子さんとひとみさんは、黙っていても楽しく食事ができる関係です。楽しくおしゃべりしているイコール仲が良いという定義を破ってくれました。でも、この2人の関係は、女ともだちというより、恋人に近いのではないでしょうか?もしかしたら、究極の女ともだちというのは、恋人と同じような位置になるのかも知れませんね。

女ともだちのいろいろなパターン

ガツンとくる女ともだちや、心打たれる女ともだちを読む事はできませんが、作品それぞれの中から、女ともだちのパターンを見てとれます。自分の回りにいる女ともだちと、比較してみることができます。そもそも、友達というのは、ライバルでありお互いを比べたがります。友達が自分よりも幸せだったり、美人だったりする事により、コンプレックスを持ってしまう事もあるのです。でも、実は人と比べて勝ち負けや、上下をつける事は、どうでもいい事でくだらない事ではないかと、これらの作品を読んで感じました。恋人や夫婦とは、また違った魅力を持った女ともだちは、生涯の中での宝物となるかもしれません。

全体的に読みやすい文章であるが…

どの文章も、スムーズでとても読みやすく心の中に入ってきますので、割と早く読み終わります。しかし、そんな作品達の中で、一つだけ読みにくい文章がありました。それは「エイコちゃんのしっぽ」です。特に、作品の始まり方が、文章によりややっこしくなっていて、誰が、どの人物かわからず、ページを戻って確認したほどでした。しかも、確認した割には、重要でもない事だったので、ムダに思えます。

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