忘れていた気持ちを、思い出させる作品 - みぞれの感想

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みぞれ

4.804.80
文章力
4.60
ストーリー
5.00
キャラクター
5.00
設定
5.00
演出
4.80
感想数
1
読んだ人
2

忘れていた気持ちを、思い出させる作品

4.84.8
文章力
4.6
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.8

目次

何回泣きましたか?私は3回です

重松清氏が書き下ろした短編小説、全部で11作品入っています。重松清氏の作品は、どれも心の奥に、スッと張り込まれてしまうような作品が多く、知らないうちに涙ぐみながら読んでいました。

こちらの作品は、短編となっていますが、一つ一つの作品がとても個性的です。特に、主人公が、女性、男性、中年、少年、少女と様々な年代や性別の人物に光をあて、まるでこの場所にその人がいるかのような錯覚になってしまいました。短編小説と言う事で、美容院の待ち時間に、気軽に読み始めたのですが、知らないうちに涙があふれてしまい大変でした。知らない人が見たら、きっと変な人と思われたかも知れません。でも、小説を読んで泣くことができる自分も幸せで、「みぞれ」という作品に出会えて良かったなと思っています。

泣いてしまった作品の一つに「砲丸ママ」があります。この話は、本当に面白くて、子供の作文と、2人の行動のアンバランスさがたまりませんでした。特に、子供の作文の中で、最後に書かれた「たくましくて運のいい人」という一節に脱帽です。子供がみる親の見方って、本当に素晴らしいなと思いました。小説のお話であるにしろ、人の出会いと生き方って、ドラマチックなのだなと、感動してしまいます。

重松清のあとがきにハッとさせられる

全て読み終えたあと、重松清氏のあとがきがあります。あとがきというのは、作者のいい訳であったり、編集者への感謝など、あまり面白いものではありませんが、今回の重松清氏のあとがきには、ハッとさせられました。

「息をするようにお話を書きたい」あとがきに、こう書いてあります。みぞれは、まさしく、息をするように書いているお話でした。血の通っている人間が、息を吐くような文章となって、語り始めます。文章の流れも、スムーズで、気が付いたら読み進んでる作品。読み終わるまでの時間を感じさせません。

「石の女」は涙が止まりません

一番涙が止まらなかったのは「石の女」です。子供のいない夫婦が、子供ように育ててきたシベリアン・ハスキー犬の龍之介。たとえ、子供ができなくても、龍之介は、2人の子供だったのですね。子供がいると嘘をついている2人に対して、必死に龍之介は訴えていたのでしょう。動かない体を動かし、力を振り絞って吠えている龍之介が、切なくてたまりませんでした。嘘に付き合わされて、自分までも、違う名前で呼ばれる事がどんなにいやだったことでしょう。最後に、龍之介の一番大好きな雅美さんに、「龍之介」と呼ばれて撫でられる場面は、まるで目の前にいるかのように思え、涙が止まりませんでした。弱った動物の登場は、読者を泣かそうとしているなと、わかっているのですが、泣いてしまいます。

サラリーマンの辛い心情

「みぞれ」の凄い所は、登場人物やその背景が、とても幅広いことです。男性の気持ちもわかり表現できるし、女性の気持ちもわかる作者はすごいなと思います。

「メグちゃん危機一髪」は、サラリーマンの苦悩を、メグちゃんというあざらしと、照らし合わせながら描かれています。ほとんどの人が、サラリーマンのこの世の中ですが、所詮は、大きな会社という中にいる駒にしか過ぎません。上からの指示に従うしかないサラリーマンなのに、左遷されたサラリーマンからは、恨まれる羽目になるのです。

なんだか、会社というのは、とっても理不尽な世界なのだなと思います。最近の若者は、会社中心の生活よりも、自分自身の生活を大事にする人が多いといいます。お金を稼ぐだけが幸せじゃないと、思っているのかも知れませんね。

勝利つながりなのでしょうか?

「へなちょこ立志篇」は、勝利という主人公が、マケトシというあだ名をつけられている自分の人生に疑問を感じ始め、へなちょこな家出をするお話です。「みぞれ」には、濃いお話もありますが、人間の可笑しさを真剣に書いた、クスッと笑える作品もあります。そんな話の「へなちょこ立志篇」を読んでいると、心が軽くなるような気分で、いつしか笑っています。

また、家出をすると決意しても、親に心配させないように携帯電話の電源が切れるまでと、子供らしい、決めごとをしているのです。しかも、携帯電話の電源が意外に、持ってしまうという事を知ると、動揺したりして、少年らしい可愛らしさを感じさせてくれました。

ところで、この勝利という名前は「ひとしずく」で登場する勝利と同じ人物なのでしょうか?同じ、勝利という名前で登場しています。私が思うところ、たぶん少年の勝利君が、成長した姿だと思います。義理の弟に、ずうずうしく家に入ってこられ、わがもの顔で横柄な態度をされるのは、あのマケトシだからこそではないでしょうか?そんな事も、考えながら読むと面白いですね。

心の奥にある大事な物

作品の中には、共感できるものや、それほどまでに感心がない作品もありましたが、作品を通じて思う事は、どの作品も、心奥にある大事な物を描いているという事です。忘れてしまったり、見失ったりすることもあるけれど、大事な気持ちや心は、決して無くなることはないんですね。そして、それが人間にとって、幸せを左右する物という事は、間違いないように思います。

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