親子愛
この作品は私の男、傷跡、砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないといった作品に見られる桜庭さんの典型的なテーマ、「父と娘」とは一風変わったものだ。
コマコは幼少期から母親であるマコに対して痛々しいほどの愛情を向けている。
母親にたとえ何をされても変わらず抱き続ける愛は、見ていて心が打ち砕かれる残虐さを持っている。
子供は母親に虐待されようとも、母親しか拠り所がない。結局母親にすがりついてしまう。そんな悲しくも逃れられない現実がこの作品で表現されている。
父と娘の異常な愛情とは違い、純粋な親子愛を描いている。しかし純粋だからこそ危険な愛情なのである。背徳感を感じることなく真っ直ぐな愛を向け続けるとなると、自分自身でその異常さに、気づくことが出来なくなるのだ。
後半、物語が大きく転換する。コマコが大人になり、作家になる。その姿は作者である桜庭さんと重なる部分がある。自身の経験や考えを、コマコを通して発露させたのかもしれない。
コマコは自分の中に渦巻く感情を、文字に出すことが大好きになる。幼少期に読んだ本から得た蓄積が自分の知識となり、本を書くことによってそれを表現する。
幼少期の思考はどうしても母親に寄ってしまうものだ。押し固められたコマコの幼少期が、後半で文字を通じて爆発するその姿がとても印象的だった。
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