愛情
父と娘。
「私の男」が代表であるが、桜庭さんの作品のテーマとして知られているこの2者の関係。
この作品の中では海野家の父と娘が、歪んだ愛情互いに表現している。
「汚染なの。」
これは、父から受けた虐待の跡を指す藻屑の表現である。それは父親を庇うためであると同時に、愛ゆえに存在してしまう感情の歪みを表現したものであると私は捉えた。
初めて私と藻屑が会った日、「死んじゃえ」と藻屑が言ったのも本人にとっては愛情表現だったのである。このことからも、藻屑にとって愛と死は紙一重なことが分かる。
ではなぜ愛と死という一見矛盾しそうな感情が紙一重になるのか。
“Because I miss you.”
「答えられたらヤバイクイズ」として紹介されているこの答えがそれを示している。
このクイズでは愛する人とは別の対象を殺しているが、対象は愛する相手にも及ぶ。相手を愛して止まない、その感情を「相手を殺す」ことによって保存出来るのである。殺してしまえば愛する人を、自分の思考の中で思うままに操れる。苦悩することなく永遠に2人だけの世界を楽しむことが出来るのである。
虐待を含めて全ては自分の愛を貫くための行為なのだ。
海野雅愛、そしてその娘は愛情を歪めて理解している。それは傍から見たら異常であり、また時には悲劇も巻き起こすが、当事者にとってはごく自然な出来事なのである。
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