少年達の固い絆 - ナインの感想

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ナイン

4.504.50
文章力
5.00
ストーリー
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キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
5.00
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少年達の固い絆

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
5.0

目次

だまされてもなお味方

この作品は、作者の井上ひさしさんが当時借りていた新道の畳屋さんの店主と話すところから始まります。大人になった新道少年野球団員達が繰り広げる話となっています。新道少年野球団のリーダーである正太郎にだまされる他の新道少年野球団のメンバー達。しかし、彼らは正太郎にどんな悪いことをされても『良いこと』だと受け入れてしまいます。私は、初めてこの作品を読んだ時、新道少年野球団員達が正太郎のことを平然と受け入れる姿に、正直最初疑問でした。なんでだろう、こんなにひどいことをしたのに。私だったら、許せないし絶縁すると考えていました。しかし、読み進めてみると正太郎と彼らの間には絶対的な信頼関係が存在していました。チームだからこそ、分かち合える喜びや苦難。青春を共にしてきた仲間だからこそ、だまされて、辛い思いをさせられても、メンバー達は常に正太郎の味方のままでいることが出来たんです。今の世の中では、考えられないくらい甘ったるい考えだと思うのですが、少し羨ましいという気もしました。私もこんな仲間達がほしいとつい思わされました。

正太郎は本当に悪なのか

さて、いろいろ新道少年野球団のメンバー達を騙してきた正太郎ですが、実は一概に正太郎が悪だとは言えないのです。例えば、メンバーの中の1人、常雄というのがいます。彼は、自動車学校の経営者の娘に見初められて結婚しますが、この娘も嫌味な娘で、高慢ちきな女で常雄も苦労してたんですね。で、ある日、正太郎はふらっと常雄の前に現れるます。とりあえず、なんでもいいから働かせてくれと常雄は正太郎に頼まれ、常雄も旧友の事を思って快く雇います。と、ここまでは良い話なんですが、そうでは終わらしてくれないんですね。季節は夏に変わった日のこと、正太郎は事務室の金庫から400万余りの現金と常雄の奥さんを奪って、姿を消しました。しかし、間もなく奥さんはぼろぼろになって戻ってきて、それからというもの常雄に献身的に尽くすようになったんです。あの高慢ちきな女がですよ!常雄も分かっているんでしょうね。正太郎が自分のためだと思って人肌脱いでくれたこと。勿論のこと、常雄は警察には通報しないし、訴えもしない。と、まぁこのことがあるから、一概に正太郎は悪だと言えないんです。他のメンバーも、常雄のようにだまされて、前よりも良い方向へと進んでいくのです。正太郎は一見、悪のように見えるけど、実は誰よりも仲間思いの子なんですね。さすが、リーダー‼︎思わず、正太郎にグッと来ました。だからと言って、詐欺はだめですけどね笑

商店街と新道少年野球団イン達

この作品のどこがすごいかって言うと、新道少年野球団員達が育った商店街と彼ら達の姿が対比しているんです。彼ら達新道少年野球団が育った新道商店街の街並みはどんどん衰退していて変わってしまった。これは、ネタバレになってしまうんですが、最後の方の文にこんなことが書いてあります。「振り返って西を見ると、大会社の大きなビルが野球場に覆いかぶさるように立っていた。この何十年かのうちに、ここには西日がささなくなってしまったようである。」この文は、新道少年野球団が離れ離れになったことを表現しています。けれども、共に困難を乗り越えてきた新道少年野球団の中に生まれた信頼や誇りは、バラバラになってしまった今も、そして未来も決して変わらないし、これからもさらに発展していく、と商店街の様子と対比になっています。きっと、これは、絆は永遠に不滅だぞという作者の井上さんの熱い思いが込められているのではないかと思いました。

全体的に、この作品はすごく面白くて、涙なしでは読めません。それほど、私は彼らに深い絆を感じました。昭和の懐かしさも味わえるのが良いですね。基本的に、この『ナイン』の作者、井上ひさしさんは暖かい人情もののお話をたくさん書かれています。その中でも、私はこの作品が大好きです。語り手、新道少年野球団、それらの親。語り口は多くて、それらをうまく使って話の展開をつけていたのが、さすがだなと思うし、それと、描写の仕方がとてもうまくて感服しました。 友情とは何なのか、また今の世の中に足りないものがきっと分かるし、改めて考えさせられる作品だと思います。また、井上さんは「握手」という作品も書いています(中学や高校の教科書に載っています)。その作品も人情に溢れた感動してしまうような話です。井上さんの作品を一度読んだら、彼の虜になります。なお、この『ナイン』は短編なので、15分くらいで読み終われます。活字が苦手な方にも大変読みやすいです。あなたも、一度、井上ひさしワールドに浸ってみませんか?

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