原作ものの難しさ - きいろいゾウの感想

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きいろいゾウ

2.002.00
映像
2.50
脚本
1.00
キャスト
2.00
音楽
4.00
演出
1.00
感想数
1
観た人
1

原作ものの難しさ

2.02.0
映像
2.5
脚本
1.0
キャスト
2.0
音楽
4.0
演出
1.0

目次

木だけが名演技

世界観を構成するためとは言え、抵抗を感じる冒頭である。何に抵抗を感じるかといえば、動物がしゃべるところである。宮崎あおいの可愛さで許せないこともないが、やけに変なメルヘン世界になってしまったと思う。なぜなら、動物たちに無理やりにセリフをのせてるように感じるからである。製作者の人間の都合でしゃべらせていては気持ち悪い。このまま、どのシーンにも渡り、動物や自然が無理やりにしゃべらされ続けるのではないかと思うと、先の展開が気になるよりも、嫌な気持ちになってしまった。

確かに原作の世界観を映画に持ち込むための趣向だというのもわかる。しかし、一歩角度を変えるとツマが異常者に見える。原作を知らずに観るものとしては、冒頭のムコの説明台詞までも長いので、ツマが異能者なのか異常者なのか分からず、原作の世界観に取り込まれるよりも、これは異常者の介護話という重い話なのかもしれないなど、勘違いしそうにもなる。もう少し動物たち、自然たちのしゃべりのくだりを短くすれば良かったのではないかと思う。それらがごちゃごちゃわちゃわちゃしたために、ツマの人物像を危うくするし、メルヘン度をあげすぎて馬鹿っぽくも見えてしまった。

しかし、冒頭を過ぎるとごちゃごちゃわちゃわちゃが収まり、なんとか話に集中できるようになる。そこで良かったのがソテツ、木である。彼だけは名演技であった。まず、良いのは木は動物と比べてへたに表情がないところである。だから、落ち着いていかなるセリフも受け入れられる。さらにソテツの良いところはゴテゴテ幹がついた、渋い木であることである。これがしかと木の中でのソテツの特異なキャラクター性を表現し、人間を見るように味わい深さがあるのである。他の動物はその動物のイメージ内にとどまり、ただやかましいだけになってしまった。物語的にはソテツだけが重要ポジションであるためにそうなったのかもしれない。と思うと、一層ソテツだけでよかったのではないだろうかとも思う。しかし、原作の世界観を表現するためにはそれだけでは少ない気もするので、難しい配分だと感じた。

向井理の定型パターン

ムコのようなキャラクターといえば、すっかり向井理のものになったなと本作を観てつくづく思った。強いゴリゴリの男ではないふんわりとした優しい雰囲気といったことや、「ゲゲゲの女房」で培った物書きのイメージはすっかり彼のものになった。それだけに、目新しさも意外性もない、安定したキャスティングだと思った。痛烈に言えばつまらないの一言である。彼の演技自体が悪いと言いたいのではない。もっと、他の役者はいなかったのかと思ってしまう。誰もが予想できるキャスティングであり、それだけに予想を超えてくるドキドキもない。原作があるものだと、原作ファンからの批判を考慮し、あまり大胆なキャスティングはできないのだろう。しかし、イメージ通りすぎて、コメディーではない、のほほんとしたテイストのこの物語においては面白みが希薄になってしまう。あえてキャスティングを冒険してみても良かったのではないだろうかと感じた。

どっちつかずの物語

この作品は何を描きたかったのか、よくわからない作品であった。考えられるパターンは二つだと思ったが、どっちつかずの中途半端なゆえに、観終わった後になんだったのだろうかという気持ちになった。

まず、ワンパターンとしては新婚夫婦とその村に住む人々の日常の機微を描いていくといったことであろうか。しかしそれにしては、あまりぐっと惹かれる夫婦でも、村人でもなかった。なぜならメルヘン度が強すぎて、ツマのキャラクターが漫画のようであるし、それに惹かれ付き合っているムコも漫画のような設定に感じる。村人もしかりで、あまり現実的ではない。日常の機微を描いていくにあたり、観る者にとってリアルだと感じる要素がないのでは、作品に観る者を引き込む力は生れない。ただ、好みによってこの世界観が好きか嫌いかになってしまう。

では、起承転結というしっかりとした軸をそなえた物語を描いたつもりだったのだろうか。とするならそれもまた弱かった。ムコがある過去を抱えており、ツマのもとを離れて東京に行ってしまうことが事件だとするならば、それにしてはあまり危機感を感じえない。というのは、二人の関係が破綻しないのはわかり切っていることであるからである。確かにこのことを機にムコは作家活動よりも二人の生活を優先することを選ぶようになるという意味では、物語の起承転結は存在していたといえる。しかし、日常の機微のシーンが主で、その事件の種が見え隠れするという前半はあまりにも長すぎて、その長さをかけるだけの結としては物足りない。単に間延びしてしまった物語だったといえる。

原作を知らないのでどっちで見せるべきだったのか、このどっちつかずの状態でよかったのかはわからない。しかし、絵本、小説、漫画といった読み戻しができる書物類とは違い、映画は始まりから終わりまで戻れない時間の積み重ねでの表現であるから、同じように表現すればいいのではなく、計算が必要である。そういったことがあまり感じえない作品であった。

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