少年少女
人がもし「超能力」を全員持っていたとしたら、それはどのような世界になるだろうか。
人々が「呪力」と呼ばれる超能力を持っている1000年後の未来を舞台にした今作。主人公・早季が呪力の秘密、血塗られた歴史と凄惨な事件に巻き込まれ、翻弄されていく姿を描いている。
この世界で呪力は生活の基盤とも言っていいほどに発達しており、私たちが住む現実世界でインチキ扱いされている超能力が当たり前のように生活を円滑に回しているのだ。まるで電気や水道のように当たり前の如く。
しかし「力」は人の心を歪ませる。平和で円滑に回されていた世界は、社会に亀裂を生じさせる可能性を持つ子供を秘密裏に裏で処理(=殺害)することで平和をかろうじて保てていたのだ。そして周りの子供たちは記憶を改変させ、何も知らずにふつうに過ごしているのだ。異常な社会体制は、現代の私たちにも通ずるところがあるだろう。
考えてみれば末恐ろしいことである。大人たちに「無能」と判断されれば、問答無用に消されて、存在自体も記憶から消えてしまうのだ。それだけ呪力は暴走しやすく、不安定で凶悪な力だということが描写されている。
そして全員が力を持っていれば、いずれ争いも起こり未曽有の大惨事が起こる。それをあらかじめ防ぐために遺伝子も改変されているのだ。人間の科学と知能は末恐ろしい。
この作品で一貫として描かれているのは「人間のエゴ」である。
力を得た代償に歪んだ社会体制を敷く運命になり、抗うことをもってしてもそれは抹殺されることを意味する。そして自分の感情など表に出せず、人為的に組み込まれた遺伝本能で生きている人々たち。全ては人間のエゴによって生まれた産物なのではないか。
特に12歳編。あれはエゴイズムを鮮烈に描いていた。
無能と判断され人知れず処分される子供たち。その事実を知ってしまった主人公たちは様々な危険な出来事に巻き込まれていった。大人の都合によって子供が翻弄されてゆく姿を的確に描いていた。
ところで、この世界ではストレスを感じると、男女の区別なく性的接触によってストレスを取り除く本能がすべての人物たちに組み込まれている。これは霊長類のボノボの群れを意識して遺伝子に組み込まれたものである。
未成熟な個体や、同性同士でもキスをしたり、愛撫をしたりしてストレスを取り除き精神の安定を図るのだ。
私にはこのときのシーンが、思春期の少年少女たちの性衝動すら大人によって管理されて、まるで操り人形のように行為を繰り返しているように見えたのだ。
いずれこういうことが起きうると言いたいのではないかと疑う限り。
だが一番残念だったのは、描写の曖昧さだ。
あまりにも状況説明だけで内容が頭に入ってこなかったり、ネットで解釈を見なければ分からないなど問題があった。尺の都合上かもしれないが、もう少しだけ説明がほしかった。
最後に、これを見てくださっている人たちへ。
本当に怖いのは人間の心ですよ。
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