爽やかな気持ちになる青春小説 - 武士道シックスティーンの感想

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武士道シックスティーン

4.204.20
文章力
3.60
ストーリー
3.80
キャラクター
4.50
設定
4.50
演出
3.80
感想数
1
読んだ人
4

爽やかな気持ちになる青春小説

4.24.2
文章力
3.6
ストーリー
3.8
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
3.8

目次

大人にも感じて欲しい青春

誉田哲也が書き下ろした青春小説。女子高校生が、剣道を通じて成長する物語、2010年には映画化もされています。ホラー小説や推理小説などを描く一方で、青春小説も描く誉田哲也氏の多彩な才能を感じられる作品です。

2人の女子高校生が剣道を通して成長する物語は、若者向きの本と思われ敬遠してしまう方も多いでしょうが、どんな年代の方にも読んでもらいたい素直に感動できる一冊といえます。思春期だから悩む、大人になったらそんな事では悩まない、もう乗り越えてきただからと、思っている方にも「武士道シックスティーン」は爽やかな風のような心を感じさせてくれます。

人間は年とともに成長していきますが、根本的な心の悩みはいつの時代も変わらずにあり、年を追うごとにプライドや知識、経験が邪魔となり、素直に見る目を失っていくような気がします。時には、こんな瑞々しい作品を読んで、あの頃の気持ちを思い起こしてみては、いかがでしょう?


剣道の描写が逸品

「武士道シックスティーン」は、剣道を描いている作品で、作中の中にも多くの剣道シーンが満載です。その中でも剣道シーンは事細かく描写しており、まるで目の前で剣道の試合を見ているような気分にさせてくれます。攻撃的な剣道、神秘的な剣道、俊敏な立ち回りの様子などがその文章から感じとってみてください。剣道を知らない人でも、なんだか自分は剣道が上手いのかも?勝てるかも知れない?などと、想像してしまい、目の前に竹刀でもあったのなら、思わず「メン!」と振ってみたくなるのではないでしょうか?

読み始めた時には、剣道の描写の多さにうんざりするかも知れませんが、知らないうちにどんどんと、誉田哲也が織りなす剣道大会や、部活を行っている練習場に足を運んでいる感覚を楽しんで下さい。


物語を締めているのはおじさん

香織と早苗、2人の女子高校生の物語ですが、脇で作品を締めているのは、おじさん達に他なりません。作者が男性とあるだけあって、おじさん達の思いがヒシヒシと伝わってきます。それは、香織と早苗の父親がクライマックスの元となり繋がっているからです。

母親と離婚してしまった早苗の父が、再び現れ早苗の心の中閉じ込めていた思いを解放し、早苗の悩みを解決に導くためのキーワードを提示してくれます。

また、父親の事が大嫌いだった香織でしたが、父親の本当の気持ちを知ることによって、今まで自分の中で凝り固まっていた憎しみと迷いが消えていきます。本当は、相手への憎しみではなく、父親から褒められたり、愛されたかった、自分の味方でいて欲しかったという、自分でも気がつく事ができなかった愛からが発端となっていたのです。

人の気持ちを強く感じさせてくれるシュチエーションや方法はいろいろありますが、このように、肉親間の愛情の強さは何よりも強く、作品を感動へと導いてくれる要素となるには、欠かせませんね。

それと、父親がリアルに感じられる理由として、似ているというのも一つのキーワードです。早苗ののんびりとした人とのやり取りは、人の良さそうな父親とそっくりですし、香織の不器用で、ぶっきらぼうな所は父親とそっくりなのです。読み側から見て、似ているイコールやっぱり親子なのだなと感じさせてくれる作品の描き方は、上手いなと思いました。


岡センパイが敵ではなかった

香織が悩み始める部分は重要ですが、うっかりと通り過ぎてしまいます。再度、読んでみた所、長年にわたって敵、倒す相手と感じていた岡センパイが実は敵ではなかった、自分の倒すべき相手でもなかった事から、香織の迷いが始まります。自分は何のために剣道をしていたのか、わからなくなってしまうのです。

ここの部分は重要なのですが、体当たりで描いているわけではなく、女子部の剣道試合を見ている合間から、岡センパイの試合を見ながら、香織は静かに悟っていくのでが、インパクトがないので、あまりこちらに伝わってきません。のち、この事から香織の迷いが始まってきますので、しっかりと読んでおきたい部分です。

 

先生は結局どっちなのか?わからない

香織の通っている桐谷道場の玄明先生は、結局いい先生だったのだろうかと疑問が残ります。タツジイに子供を教える事に向いてないと言われ、また香織の父親にも、攻撃的な剣道と言われていたのだが、香織に対して「人は憎しみだけを糧に、生きられるものではない」と…。今までのタツジイや香織の父親が持っている玄明先生のイメージと合わない気がします。ある意味、スパルタ式の教えを重んじている玄明先生にも、もっと奥深いものがあるのなら、もう少し深く玄米先生を描いて欲しかった。


個性的なキャラクラーが花を添えている

「武士道シックスティーン」のキャラクターは、主人公の香織と早苗を始めとして、どれも個性的ですが、同時になんだかこういう人っているかも知れないと、思わせる描き方をしています。香織の兄や、早苗の姉、部活の先輩など、どのキャラクターを見ても個性的で、物語に花を添えています。単純なストーリーなのですが、飽きずに楽しく読める「武士道シックスティーン」です。


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