家族の本質を描いた映画 - レイチェルの結婚の感想

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家族の本質を描いた映画

4.24.2
映像
4.0
脚本
4.3
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.3

目次

カサヴェテス映画のような緊迫感あるドキュメンタリータッチ

映画の中盤の息の詰まるようなやりとりを見たあとに、私はしばらくあの偉大な人のことを忘れていたなあ、と溜め息と共に思い出しました。

「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミの新作は、アメリカのインディペンデント映画の巨匠ジョン・カサヴェテスの映画を彷彿とさせる、鬼気迫るドキュメンタリーのような作品でした。

私がこれまで見たあらゆる映画のなかで、もっともインパクトのある作品として記憶に残っているもののひとつに、カサヴェテスの「こわれゆく女」があります。これは、個人的な好き嫌いを越えて、ちょっと忘れがたいような凄みのある怖い映画です。
また、自分にとってのヒーロー、一番かっこいい女って誰だと聞かれたら、やはりカサヴェテスの「グロリア」のなかでの超クールな女主人公、ジーナ・ローランズが演じたグロリアを挙げるだろうなと思います。 


ジョン・カサヴェテスの映画には、見ているうちに知らず知らず息を詰めてぐっと画面に見入ってしまうような、胸苦しいまでの濃密さと、耳鳴りがするようなぴんと張りつめた緊張感の持続があり、いつも感嘆させられます。丁寧に人間を描いているというところを大きく深く越えて、人間存在の業のようなものが立ちのぼってくるような、ぞっとするような感じがあります。

「レイチェルの結婚」を観ていると、そのようなカサヴェテス映画の感覚を久々にありありと思い出すことになりました。カメラワークなどを見ても、おそらく監督のジョナサン・デミは、カサヴェテスやあるいはロバート・アルトマンを意識してこの作品を作ったのではないだろうかと想像します。


無意識がもたらす不幸を描く

私がこの映画で一番感心したところは、家族というものの本質を、その残酷さを含めてすごく描いたというところでした。
この映画のリアルさを前にすると、よくある、色々あっても最終的には整合性などぶっとばして家族愛に落とし込んで大円団!みたいな、いかにもハリウッドな映画みたいなものって、しゃらくさくって耐えられん、という感じです。もちろん大円団映画が悪いということでは全然なくって、そもそも目指すところが違うので比べること自体がナンセンスなわけなんですけれど、それくらい逆ベクトルの表現だ、ということで。

アン・ハサウェイ演じる主人公キムは、家族に迷惑をかけてばかりの薬物中毒の問題児で、彼女をとりまく家族は耐えて耐えて、健気にキムを支えている。一見どこから見てもそうで。でも、キムは家族から「何か」を背負わされ、家族は彼女がだめであり続けることで安定しているという構図が、物語が進んでゆくうちに次第に立ちのぼってくる。

キムの行き場のない感情の爆発や問題行動の数々は、この、あくまで無意識的ではあるんだけれどそれゆえに根深い「キムを犠牲にしてなんとか成り立とうとしている家族の有りよう」という構図に対する抵抗である。けれど、家族のみならずキム本人も意識的にはそのことを分かっていないので、ますますキムは混乱した、どうしようもない存在になりさがっていく。そうして訳の分からない混乱が極まった時、差し当たっての事態を収拾させる為に、キムは訳が分からないのに、とりあえず謝る。その、家族の誰もにとっても不毛で、出口のないもがき。

そして多分、同じことが今後もずっと繰り返される、ということまでも予見的に描きながら映画は終わっていく。


家族というものの愛ゆえの残酷さ

それでも、この映画はただただ陰鬱でみじめで虚しいだけの作品ではもちろんありません。これほどまでに悲しいのは、この作品の登場する人々の心の根っこにあるのが憎しみではなくて愛情なんだからだと思います。無目的で不器用な、彼らのいとおしいような人間味が作品を通じてひしひしと伝わって来ます。しかし、むしろ愛するがゆえに深く傷つけ合うのだし、致命的に分かり合うことなくすれ違ってしまうのが人間というもので、だからこそこの作品は、よりやりきれなく、救いがない感覚を持っているのだと思います。そこには真実の感触があります。

血縁関係を基盤にした共同体である「家族」というものの成り立ちには、切っても切れない深い愛情関係と表裏一体のように、そもそもそのような残酷なものも含まれているのだということを「レイチェルの結婚」は観る者に突きつけてきます。そういう意味では、キムはキャラクターは全く違えど、「ゴッドファーザー PART.2」におけるアル・パチーノのようでもあると言えるかもしれない。


いずれにしても、この映画のこのような描き方は、私にはすごく腑に落ちるものがありました。それはなんといっても、自分自身のとても身近にこのような家族が「いた」からに他なりません。

その、自分自身のことに思い当たった時に、自分も責めに加担した家族の一員だと思い知る。そして深い溜め息と共に、偽善なんてくそくらえ、と小さくつぶやく。

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