人形が背負う人の気持ちが哀しい
作品としては、『からくりからくさ』の後に発表されていますが、時間軸としては『からくりからくさ』の前、重要な登場人物の1人である蓉子の子ども時代の話になります。何もかもをひとまず受け止めて、包み込んで、丸く収まるような形で戻してくれる彼女の不思議な魅力は、こんなふうに培われたのだなあと納得させてくれる1冊です。『からくりからくさ』を読んだ方には、ぜひお勧めです。 そして、この作品(『からくりからくさ』でも)の重要なもう1人の登場人物は、日本人形のりかさんです。本当は、あのリカちゃん人形が欲しかった子どもの『ようこ』が、おばあちゃんから譲られた人形です。が、この人形はある特別な人(それが、『ようこ』であり、彼女の祖母)とは心を通して会話することができるのです。 そして、りかさんを通して、『ようこ』はさまざまな人形たちの声を聞き、人形たちが背負ってきた思いを受け止めます。その思いは、かつてその人形を愛した人たちの切なく、血を吐くような強く、哀しい思いです。人形たちは愛してくれた人の強い思いを受け止め、一緒に抱えてくれるばかりか、その人の死後も大切に守ってくれています。 女の子なら大抵はごく身近になんらかのお人形があったでしょう。大人になっても大切にしている人もいるでしょう。その人形たちが、自分ひとりで苦しんだり、悲しんだりした思い出を優しく抱えてくれていると思うと、とてもいとしく思えます。 ただ、人形はどうも怖い、気味が悪い、と感じてしまう人もいるかと思います。そういう方には、その思いを強めてしまう可能性がありますので、あまりお勧めできません。
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