少しだけ奇妙な味わいの、マン・ウォッチング小説
「この本の中の物語は、事実をなるべく事実のまま書きとめた、スケッチである」という書き出しで始まる短篇集。 それぞれの話は、著者自身が出会った人の話か、著者が人から聞いた話である、と前置きされている。 両親の離婚の原因になったのは、ドイツの吊りズボンだった、という「レーダーホーゼン」、著者自身が学生時代に関わった、呼吸するように人を傷つける、とても美しく恵まれた女性の話「今は亡き王女のための」、毎日かかってくる無言電話をきっかけに嘔吐を繰り返すハメに陥った青年の「嘔吐1979」など。 出てくる人々は特別変わった立場の人ではなく、ただそれぞれ、人生の一部分に奇妙なことが起きた、説明しづらい状況にあった、というスタンスで描かれている。 これが、とてつもなく興味深く、おもしろい。 妙なオチをつけるでもなく、淡々と事の成り行きを綴っていくスタイルが、内容に妙にマッチしていて、読んでいてとても不思議な気分にさせられる。 マン・ウォッチングが好きな方にはおすすめするしかない。 そうでない方も、大言壮語な「小説」に疲れたら、そっと読んでみるといいのでは。
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