杜子春の感想一覧
芥川 竜之介による小説「杜子春」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
原典と比べて
『杜子春』について芥川龍之介の『杜子春』は完全オリジナルではなく、モデルとなった作品があります。原典は、中国の『続玄怪録』に収録されている「杜子春」という話です。貧乏になった男が老人と出会い、はじめは金銭をもらっていたが、後半は老人のもとで仙人の修行をして失敗におわるという物語の大まかな流れは同じです。しかし、芥川龍之介は自分流に書き直しています。そのため、芥川の『杜子春』と原典とを比べると多くの相違点がみられます。例えば、登場人物の人間像や試練の失敗理由です。この2つは原典と大きく違っています。芥川龍之介がなぜ大きく変更したのか考察してみたいと思います。登場人物の人間像原典では、老人が杜子春に金銭を直接手渡しで渡します。また、杜子春にこのお金で生活を立て直して欲しいと望んでいます。しかし、芥川の『杜子春』では金銭の直接な受け渡しはなく、黄金が埋まっている場所を教えるだけです。また、黄...この感想を読む
童話にひそむ人間の真理
これは世代を問わず幅広く読まれている名作です。元ネタとして中国の古典を下敷きにはしているものの、芥川なりにテーマをとらえてそれを上手く溶かし込んで成功した翻案作品に仕上がっています。仙人に宝のありかを教えてもらい、その度に金持ちになって世の中の繁栄を味わうのですが、金を失って没落するや離れていく人々。それで人間のあり方に嫌気がさして仙人になれるように教えを請うのですが、そのために試練を課されます。杜子春は試練に耐え抜くためにどんな辛いことが起きようと耐え抜きますが、ついに親が関係したことが起きると、親子の情愛から耐え切れず声をあげてしまい戒めを破ってしまいます。実はそれは仙人が望んでいたことで、最後に家と畑を与えれて余生を過ごすという選択を与えられます。富貴や人生のあり方に関して童話ながら鋭い示唆を与えており、考えさせられる名作です。
濃いです
だいぶむかしに、自分の中にノスタルジーブームが起こり本好きなこともあって買った一冊でした。歴史の教科書でみた憧れの芥川龍之介の本を手にしてはりきって呼んだ記憶があります。最近、再び手に取り短くあっというまに読み返してしまいました。時代が変わっても親と子の愛は変わらず、幸福とは自分の力で手にするもの。人間らしさを忘れず、生きていくことの大切さが伝わる一冊ですね。今の時代にも大切なことを教えてくれています。ラストの仙人の言葉にはやさしさを感じました。こどもたちにぜひ読んでもらいたい本です。こうゆう本を読むと自然と大事な何かを身につけていくはず・・
大切にするべきものはなにか
金持ちの息子だった杜子春が、財産を使い果たし、食うものにも困るようになってしまったところへ現れた仙人によって、2度も杜子春は助けられます。しかし自分の裕福な時にしか近寄って来ない人間に愛想を尽かし、仙人に弟子入りしたいと申し出ます。仙人が西王母にあってくる間、一切声を出さずに待っていろと言われた杜子春は、どんな脅しにも負けませんでしたが、痩せこけた馬になった両親が鞭で打たれる姿に思わず声を上げてしまいます。お金がなくても、仙人になれなくても、自分を何よりも大切にしてくれる人を、自分も大切にして、人間らしく生きていきたいと感じたであろう杜子春の心の変化に読んでいる側も心動かされました。