今ここで、きみに言いたい。同封した写真を見て。きみはいい顔している。際限なく広がるこの美しい世界の、きみだってその一部なんだ。わたしが心から好きになったものの一つじゃないか。
雪村サキ
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主人公の孤独に対する執着。主人公のぼくはとにかく1人になりたい、これでもかという程に人との係わりに疲れた青年だと念を押す文章やエピソードが多く綴られている。初めて読んだ時には、主人公の孤独感への共感や同意見を感じながら読み進めていたが、2度目に読み直す頃にはなるほど、この「ぼく」の独特の孤独に対する意思の強さや孤独であろうとする姿勢や執着についての納得が出来た。つまりは、のちに彼が体験する事、彼の変化に対する布石だった。当然、実際の世の中では孤独であろうとする事に原因はあっても理由付けや折り合いなど簡単に言い表せるものはないのだが、この話を読み切った時、孤独を感じる世界の誰もがこの主人公と同じ体験が出来ればどんなに美しいことかと感じた。この話は少し疲れた時や心が狭くなっている時に読むと心穏やかになれる。切なくも優しい物語で個人的にとても気に入っていて何度も読み返している。作者である乙一...この感想を読む
著者の書き出す登場人物たちは、誰もがどこか傷ついていて、臆病で、さみしがりやで、痛いほど誰かを愛している。ストーリーの中心となる少年少女たちの記憶の底には、今はいない大切な人との思い出があり、そしてその人に裏切られたトラウマがある。壮絶な半生を送ってきた主人公たちに、安易に「あー、わかる」と共感の言葉をかけることはできない。トラウマは、その体と心を守るために脳に与えられた学習機能だ。自覚のあるなしに関わらず、一度深く傷ついた者は二度と同じ轍を踏まないように慎重になる。他人の裏切りで傷ついた心は、他人を愛さないことでその身を守ろうとする。誰かを強く深く愛した分、優しくされた思い出の分、彼らは頑なにその気持ちから目をそらす。その呪縛は外側からかけられたものではなく、彼ら自身が己のためにかけた鎖だ。だから解除する鍵を、本人以外の誰も持っていない。例えば、「傷」。他人の、または自分の体の傷跡を...この感想を読む
短篇集で乙一さんの作品を見て気に入り、この本を手に取りました。切ない話ばかりをセレクトしていますね。複数の作品が収録されていますが、一番のお気に入りはやはり失はれる物語です。事故に合った全身不随の主人公。残されたのは右腕の感覚のみ。もちろん主人公の意識はありますが、言葉にすることはできず、指を動かして表現する以外に方法はありません。ピアニストである妻はその右腕の上で演奏するように指を動かす。演奏から伝わる妻の気持ち。訪れてはしかし、いつまでもそうしているわけにもいかず…切ないラストは泣けました。他の作品にも泣けるものが多いので、家で一人で読むことをおすすめします。
雪村サキ
主人公が雪村サキが殺された事実を知った時、殺された雪村サキからの手紙を見つけた。雪村は、自分が殺されたにも関わらず、自分を不幸とは感じていない。確かに、世の中絶望したくなるような事実はたくさんあるけども、それ以上に、泣きたくなるくらいに綺麗なものが、たくさんあると主人公に伝えて、主人公を励まそうとしている場面。