経理で大切なのは、ここぞというときにうまく気を抜くこと、適度にいいかげんであること
経理の洞口さん
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「雪沼」という土地の周辺に暮らす人々の、些細でささやかな営み、成り行きを描いた7つの短編からなる短編集。収録作はどれも同じ土地が舞台と思われるが、ひとつひとつのお話は独立していて、直接的な関連(登場人物が同じ、等)はない。田舎といって差し支えない規模の町で、人々が出会う事象、事件、人生の成り行きが、丁寧な筆致で綴られていく。アップダウンの激しい乗り物のような文章がお好きな方には、本作は読みづらいかもしれない。堀江敏幸の第一の特徴は、そのセンテンスの長さであり、巧みさであるからだ。一文がとても長いが、その言葉遣いの美しさ、呼吸のようなものになじむと、えも言われぬ心地よさを感じられる。注意深く、急がず、お話の最後のページまで辿り着くたびに、ゆるやかな流れのなかに「あっ」と思わされるところがひそんでいる。うっかり見落としてしまいそうな、ちいさなちいさなものを読者に見せてくれる、珠玉の短編集だ。この感想を読む
経理の洞口さん
なんでも納得のいくまできちんとしたい主人公に対して、経理の若い女の子(洞口さん)が言った言葉です。「生活を左右する数字のならびは数学の先生が使っているのとはべつのものだ、抽象概念ではないし冷ややかな数字の羅列でもない、生活の重みが乗っかった人間味のあるものでなくてはならない、そのためにはもっと隙をつくるように(本文引用)」という論理です。