吉田修一ならではの風景描写が堪能できる作品
温泉を舞台にした5つの話この「初恋温泉」には、タイトルにもなっている同名の短編を含んだ全部で5つの短編が収められている。その全ての話は温泉が舞台となっていて、いわばそれぞれの主人公たちの非日常が描かれている。ある程度年を重ねた夫婦から、初々しい高校生のカップルまでの日常も描写されており、そこから“温泉”という非日常に切り替わるところが映像的で、このあたりが吉田修一の風景描写の手腕を感じさせる。吉田修一の作品はそういった風景描写がメインで話が進むタイプのものが好みだ。あまり登場人物が多すぎたり、人間関係が濃厚すぎると風景描写だけでは情報が足りなくなり、どうしても底が浅く感じてしまうのだ。それに比べてこの作品は短編ということも手伝い、登場人物の人数もちょうどよく物語の展開もいわば“風呂敷を広げすぎた”感がなく、そこに吉田修一特有の風景描写が彼らの周囲を色鮮やかにする。そして舞台が“温泉”と...この感想を読む
3.53.5
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